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夏休み前の静けさ 10
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「俺が臆病で弱い人間だからだよ。」
「え…??」
「俺が臆病で弱い人間だから、自信がなくて言えないんだ。」
「っ…」
「篠原だったら普通に言うだろうな…。この人は俺のものなんだって。」
「かい、ちょう…」
「あいつは強いから。」
へらっと。
力なく笑う。
すると、ガタッと勢いよく長谷川が立ち上がった。
俺は俯いていた視線を上に向けた。
長谷川と目が合う。
ものすごく真剣な目だった。
「会長は弱くなんかない!!だって、俺の相談にものってくれたし…。それに、この学校をまとめてくれてて、会長のこと憧れてる人なんてたくさんいるし!!かっこいいし、モテるし、運動神経もいいし、頭だっていいし!!それに、」
「じゃあ、それは嘘の俺だ。」
「え…??」
「本当の俺は、そんな完璧な人間じゃない。」
「っ…」
「本当の俺は、世間体とか周りの顔を気にしてばっかの弱くて臆病なやつなんだよ。」
「そ、そんなはずは、」
「あるんだよッ…。」
声を荒げる。
長谷川の言葉が痛い。きつい。辛い。
俺はそんな人間じゃないのに…
その言葉を聞くと、なんだかもっと惨めになる。
「俺は、もともとノンケで、男になんか興味なかった。この学園に来たのだって、元カノから逃げるためだったし。確かに、いろんな人に告白されたけど、全部断った。男とは絶対付き合わないって思ってたから。」
「どう、して…??」
「周りの目が気になるからだよ。」
「周りの、目…??」
「気持ち悪がられるだろ??男同士で付き合うなんて…。だから、男とは絶対付き合わないって思ってた。ま、もとがノンケだからね。」
ははっと笑う。
それでも、長谷川の目は変わらず真剣だった。
「でも、あいつと出会って変わったんだ。」
「あいつって…篠原くんですか??」
「うん。最初は強引なやつで…。俺の気持ち関係なしにズカズカと土足で俺の中に入り込んできて。触れて欲しくないところにも容赦なく入ってきて。」
「確かに、篠原くんはそういう性格ですよね。」
長谷川が笑う。
俺は長谷川の言葉に、クラスでもこんな感じなんだなって思って。
俺もおかしくなった。
「だから、俺の弱い部分とかも見せられたし、あー、俺にはこいつなんだなって思った。だから、俺は篠原が好きになったし、好きになったことを後悔なんてしてない。でも、やっぱり、無理なんだ…。」
「え…??」
「どうしても周りや世間体を気にしてしまう…。篠原のこと、こんなに好きなのに…。捕られたくないのに…。言えない。知られたくない…。」
俺の心の奥にあったものが悲鳴をあげる。
愛で染まった心と嫉妬で染まった心と臆病で弱い心。
それらがグルグルと俺の心を支配する。
「それ、篠原くんには言わないんですか…??」
「言えるわけないだろ、こんなこと。」
「ど、どうして!?篠原くんだったら絶対受け止めてくれると思いますよ!?」
「だからだよ。」
「え…??」
「こんなこと、受け止めてほしくない。あいつに迷惑がかかるから…。」
「そんなの…付き合ってるんだから迷惑くらい、」
「俺が嫌なんだよ…。こんな気持ちを知られるのが…。」
「っ…。」
「こんなこと知られたら、あいつは絶対傷つく。俺のこと嫌いになる。俺から離れていく…。」
「そんな…」
キーンコーンカーンコーン
予鈴のチャイムがタイムングよく鳴り響く。
「昼休み終わったから、戻らないとな。」と、俺は立ち上がって。
長谷川の肩にポンッと手を乗せる。
そんな俺の行動に首を傾げた。
「話聞いてくれてありがとな。でも、この話は篠原には言わないで。」
「え…」
「じゃあな。」
「会長!!」と、後ろから叫ぶ長谷川の声を無視して、俺は空き教室を後にした。
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