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夏休み-海- 08
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篠原柊side
「先輩待って!!」
走って逃げ出そうとしている先輩に手を伸ばして。
大好きなその手を掴もうとしたとき、俺は誰かに後ろから引っ張られて。
先輩の手を掴むことが出来なかった。
「何すんだよ、離せよ!!」
引っ張られた手はまだ繋がれたままで。
俺は手を振り払って、後ろを振り返る。
すると、そこには薫が立っていた。
「どうしちゃったんだろうね、夕貴先輩。」
「おまえが引っ張るから行っちゃったんだろ。」
「ま、そうだね。」
呑気に笑う薫に少しイライラしながら、「何か用??」と素っ気なく聞く。
「今日誕生日でしょ??」
「え??」
「8月10日。」
薫に日付を言われて、あぁ、そういえばと思い出す。
「ホントだ!!今日、柊の誕生日じゃん!!」
「なんだよ、言ってくれればよかったのにー。」
俺と薫の会話を聞いていたみんなが口々に話し出す。
「夏休みで日付感覚なくなってたから気づかなかった。」
「あー、確かに夏休み中はなー。曜日感覚もなくなるしな!!ま、とにかく誕生日おめでとー。」
「あぁ、ありがとう。」
「てか、柊。夕貴先輩行っちゃったけど…。いいのか??」
「やべっ、追いかけないと…」
友達の言葉に先輩の顔が浮かび上がる。
さっきの苦しそうに歪んだ顔。
その顔が頭から離れなかった。
俺は、「じゃあな。」と言って、先輩を追いかけようとしたとき。
また誰かに腕を掴まれた。
次は誰だよと思いながら、振り返ると、また薫だった。
「なんだよ、またおまえかよ。いい加減に、」
「いいじゃん、夕貴先輩のことなんか。」
「…は??」
「せっかくの柊の誕生日なんだし。俺、柊の誕生日祝いたいんだ。だから、」
「その気持ちはありがたいけど、俺は先輩に祝ってもらいたい。」
「え…」
「それに、早く先輩のところに行かないと…」
今どこにいるのかな??
ナンパ…とかされてないかな??
どんな顔してるのかな??
何をしているのかな??
考えればキリがない。
とにかく早く、先輩のところへ…
「嫌だ…」
「は??」
「夕貴先輩のとこになんか行かせたくない。」
「何言ってんだよ。」
「いいじゃん、夕貴先輩のことなんか!!」
「よくねーよ。俺にとっては大切な人なんだから。」
「っ…」
大切な人。
その言葉に周りのみんなが反応して、「なんだよ、大切な人って!!」と茶化し始める。
でも、今の俺にはそんなことに対応している暇なんてない。
「いいから、薫。早く離せ。」
「やだ。」
「おい、薫。」
「だって、夕貴先輩は柊のことなんかなんとも思ってない!!」
「…は??」
「柊のこと何にもわかってない!!柊にふさわしくなんか、」
「じゃあ、おまえは俺の何を知ってるんだよ。」
「え??」
「おまえは俺の全部を知ってるのか??」
「それは…」
「先輩は、おまえの知らない俺を知っている。」
「っ…」
「それに、周りにどうこう言われようと、先輩がどう思おうと、俺は先輩が好きなんだ。その気持ちが何があっても変わらない。」
力なく、薫の手が離れる。
残酷なことを言っているのはわかってる。
もちろん、薫の気持ちだって気づいてる。
ずっと昔から。
だから、今ここでちゃんと言わないと…
薫も俺を忘れて前に進めない気がするんだ。
俺には、先輩以上に好きになる人なんていないから。
俺は、再び茶化し始めるみんなに、「じゃあな。」と手を振って。
先輩のもとに向かった。
「改めて誕生日おめでとう!!」
そう叫ぶみんなの声を背中に浴びながら…
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