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夏休み-海- 17
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篠原柊side
「なんですか??」
先輩と明日帰るための荷造りをしているとき。
お兄さんから「2人きりで話がしたい。」と、言われて、今俺はお兄さんとお兄さんの部屋にいる。
でも…
「いい加減、何か話してください。」
連れてこられたのはいいものの、お兄さんはまったく口を開かない。
ベッドに座って俯いて、黙ったまま。
あれから何度も声をかけているが、返事がないのだ。
「はぁ…」
俺はため息をついて、ドアノブに手をかけて、かちゃっとドアを開ける。すると、俯いていた顔を勢いよく上げて、「な、何勝手にどっか行こうとしてんだよ!!」、と。
俺が出て行くのを阻止するように、開けていたドアを押されて、再びかちゃっと閉まった。
「じゃあ、早く話してくださいよ。さっきから、黙ったままじゃないですか。」
「そ、そうだけど…。なんか、改めておまえを目の前にすると言いづらいんだよ!!」
「…はあ。」
「なんだよ、"…はあ。"って!!」
「いや、なんか意外だなって。」
「う、うっせーよ!!」
顔を赤らめてのこのツンデレ発言。
なんか…
「やっぱ似てますね。」
「は??」
「いや、さすが兄弟だなーって思って。」
「な、なんだよ、それ。」
「なんか、さっきの言い方といい、その表情といい…どことなく先輩と似てるんですよね。」
「な、何言ってんだよ!!俺と夕貴が似てるわけないだろ!?」
「まぁ、似てないところもありますけど、似てるところもありますよ??」
「はぁ!?ぜーったいありえん!!それに、夕貴のほうがもっとかわいい、」
「えぇ、かわいいですよ。そういうところが。」
「え??」
「たまんないんですよねー。顔真っ赤にして、瞳潤ませて言うツンデレ発言。」
「なっ!?おまえ、」
「そういうところもかわいくてたまんないんです。」
「っ…。おまえ、本当に夕貴のことが好きなんだな。」
「今さら何を言ってるんですか??」
「いや、なんていうかさ…。おまえもモテるだろうけど…。夕貴、すっげーモテる…だろ??」
「えぇ、まぁ。俺はともかく、先輩はすっごくモテますけど。それと何か関係あるんですか??」
俺の言葉にお兄さんは、背を向ける。
そして、ゆっくりと歩いてベッドまで行くと、腰を下ろした。
「水族館から帰ってきたとき母さんが言ってたから、知ってると思うけど…あいつさ、今でも俺たち家族に迷惑かけたと思ってて。罪悪感と罪滅ぼしであの学園に入って、成績は常にトップ。おまけに生徒会長だ。」
顔を下げて、俯いたまま話す。
顔が見えない。
どんな表情をして、このことを話しているかわからない。
でも、俺にはわかる。
話している声と、自分の手を掴んで、必死に震えに耐えていることから。
どれだけ辛く悲しい表情をしているか。
俺にはすごくわかった。
「俺たちにとっては確かにうれしいことだ。荒れてた頃の夕貴は本当に手のつけようがなくて、すっごく苦労した。だから、ここまでがんばってくれていることがすごくうれしい。うれしいんだけど…」
「だけど??」
「夕貴が俺たちへの罪滅ぼしでこんなにがんばっているんだってことを知って…正直胸が痛んだ。」
「……。」
「俺たちはただ、普通に楽しく学校生活を送ってほしいだけなんだ。ただ、それだけなんだ…。」
「っ…」
先輩を思っているからこそ出る、お兄さんの本音。
その言葉に何て声をかけたらいいかわからなかった。
でも、お兄さんも本音で話してくれたから、俺も本音で話そう、そう思うと、自然と口が開いた。
「確かに、先輩は自分で抱え込みすぎることがあるから。それに俺も心臓に悪い思いをたくさんしました。お兄さんみたいに胸が痛むこともあった。でも…」
「??」
「それが先輩だから。」
「…え??」
「言ったでしょ??そのままの先輩が好きだって。ありのままの先輩が好きだって。抱え込みすぎるところも先輩だから。そういうところも好きなんです。」
「っ…」
「それに…」
「なんだ??」
「本当に罪滅ぼしなんですかね??」
「え??」
「確かにそんな感じのことは先輩に聞いたことがあります。母さんたちにはたくさん迷惑かけたって。でも…すごく楽しそうですよ。」
「…え」
「生徒会の仕事も勉強も。すごく楽しそうです。」
「っ…」
「それに、罪滅ぼしだけであそこまで出来ないと思う。そういうことが好きじゃないと出来ないと思う。」
「篠原…」
「あれがありのままの先輩なんですよ。だから、先輩は学園中から愛される、憧れの会長さんなんです。」
「っ…」
一瞬しか見えなかったけど、俯いているお兄さんの目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙がとてもきれいだと、俺は思った。
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