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青年と番犬 ※グロ注意
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油断した、と舌打ちする。ラフルの手を引っ張って路地裏へと逃げ込む。たまには、フードのついたものなら男物の服でも大丈夫だろうとそれで出歩いたのが悪かった。
追っ手に見つかってしまったらしい。無言で俺たちを追いかけてくる。
逃げ込んで、息の切れたラフルを見遣る。ただ単に体力だけの問題ではなさそうだ。
「ラフル、大丈夫か?」
「は……はっ……とー、る。俺、怖い……」
「俺が全部、始末してやるから。大丈夫だ。だから、隠れてろ」
必ず持ち歩いている麻の大袋から、ガントレットを取り出す。装着し、拳をぐっと握る。ラフルは頷いて、物陰に隠れたようだ。追っ手は三人。それなりに出来るらしい。
黒いフードの男が俺にナイフの刃を向けている。あんなもので、俺をどうにかできるとでも思っているのだろうか。
「あの男を、どこにやった」
「知らねえな」
「痛い目に遭いたいのか」
「それは俺の台詞だ。痛い目に遭いたくなきゃ、とっとと失せろ。俺は気が立ってるんだ」
ラフルを、こんな目にあわせやがって。
苛々は絶頂に達していた。狭い路地の中だ。分は俺にある。襲いかかってくるナイフをかわしガントレットで殴りつける。切られたところでさして痛くはないがラフルが心配する。
この情報を元まで運ばれたら厄介だ。追っ手は全て殺す。こういう奴らに口止めなんて無駄なことだ。
怯んだ奴を殴りつけ、頭を掴み、仕込んである火薬を爆発させる。血の匂いに頭がカッと熱くなる。
「一人目……」
首から上の吹っ飛んだ追っ手を投げ捨てた。ぼそりと呟いて次の獲物を探しにかかる。
殺気に身を翻す。刃をガントレットで受け止めると、甲高い金属の音が響いた。さっきの奴よりは出来そうだが、気の立った俺に遭ったのが運の尽きだ。ガントレットに溜め込んだ熱量を一気に解放し、殴りつけ火柱を噴き上げた。暗い路地裏を一気に炎で照らし、それがやむころには黒焦げになった死体がひとつ転がっていた。
それを踏みしめ、血走った目であと一人を探す。
「トール……っ!」
「馬鹿!来るんじゃねぇ!」
不安げに俺を呼びこちらに走ってくるラフルを怒鳴りつける。俺に辿り着く前に、ラフルは後ろから伸びた手に羽交い締めにされてしまった。
「武器を降ろせ。どうなってもいいのか」
なんだ、あいつは。なんで、俺のラフルに、気安く触れて、しかも俺を脅してやがる。
首筋が熱くなる。汚い手でラフルを触って、ああ、かわいそうに、ラフルの奴、怯えちまって。
お前ハ何も、心配スることは無イ。
おれガぜンぶ、ぶっ壊シテやル……!
「ああああアアアアああああァァああああアああ!!!!!」
絶叫が路地裏に響き渡った。そこにいたのは、トールではない。
血走った金色の目、獰猛な息、その場を凍りつかせる殺気。戦いに、血に狂った戦士が、ラフルを拘束する男を射殺すような視線で見つめていた。
ラフルは一瞬、凍りついた。あれが、戦場で化物と呼ばれるトールの姿。しかし、すぐになぜか大きな安堵がその身を包むのを実感していた。
トールなら、必ず自分を守ってくれる。それが何故かしっかりと伝わってきたのだ。
一瞬で、トールは距離を詰め男の頭に拳を突きつける。そしてやおら口を開く。
「そいつヲ、離セ」
「ひ……!」
地を這うような低い声で脅され、男は反射的にラフルを解放した。くく、と満足げに嗤うと、トールは男の首を掴み壁に押し付けた。
「ま、待ってくれ!言わないから!見逃してくれ!」
「おれノものニ気安ク触リやがっテ。死デモ、生温イ」
そのまま男の首を握る力を強くする。やがて、べきっ、と嫌な音が響いた。
トールは男だったものを投げ捨てた。そして、金色の目がラフルをじっと見る。ラフルはトールをただ見上げ、そしてにっこりと笑った。
「さすが、俺だけの番犬だね。帰ったら、ご褒美をあげなきゃ」
頭を撫でるラフルに、トールの凶暴性が失せて行く。嬉しそうに、トールは抱きつき頬擦りする。
「ラフル、ラフルぅ……俺は、お前だけの……」
「そうだよ。……いい子。さ、帰ろう?早くしないと、誰か来ちゃうし」
凶暴性も、先ほどの頼りになりそうな表情もすべて失せて緩みきり、ただラフルに甘えるだけの犬に成り下がってしまう。
「いい子なトールには、ご褒美に、なんでもしてあげるね?」
「……なんでも?」
「そう。なぁんでも。ね?帰ろう?」
手を繋いで、歩いて家路につく二人。
血に狂ったトールをも丸ごと、ラフルは受容している。自分を傷つけることは絶対にないと、確信しているのだ。怯えや敵意が、トールを狂わせている。そしてそれが起こるのは現在はほとんど自分のせいであることをラフルは理解している。自分のために狂うそれすらも。
ただただ、愛おしい。
「ふふ……」
「どうした?」
「なんでもなぁい。早く帰ろう?一緒にお風呂、入りたいなー」
路地裏から出ると、先ほどの路地裏の戦闘が嘘のように、街は賑わっていた。二人の姿は、街の喧騒の中に消えていった。
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