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Cage-003
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「燮とクロエがいなくなった、だぁ?」
「……君に頭を下げるのは僕としてもとても癪だが、一番クロエと親しいのはショウさんと僕を除けば君だろう」
トールは目の前の珍しい来客と話をしていた。トールの目の前で難しい顔をしているのはグラス、確か燮やクロエの同居人だ。クロエに勝るとも劣らぬ実力の持ち主だが、人探しはあまり得意ではないらしい。
トールはかつてクロエに救われたことがあった。だからこそ、クロエの脆さも理解していた。
「クロエがふらふらしてんのは分かるけど、燮までいなくなるってのは、今までねぇことだよな?」
「……そうだ。僕の予想では、」
「クロエさんが、燮さんを何処かに連れて行ってしまった、ってこと?……はい、お茶をどうぞ」
「ああ、ありがとう」
キッチンから紅茶を持って出て来たのは、トールのパートナーのラフルだった。
「君もクロエに会ったことがあるのか?」
「うん、なんていうか、嘘のうまい人だなって。……随分、思い詰めていたみたいだし」
ラフルも紅茶の水面を眺めながら、思案を巡らせる。クロエの美しくも脆い笑みを反芻した。少しだけ、心を開いてくれたクロエは自分よりも他人を見ているような人種に見えた。
燮という人に会ったことがないからなんとも言えないが、クロエもとても、優しいひとなのだと思うのだ。
「それで、君たちにクロエとショウさんを探して欲しいんだ」
「お前は?」
「仕事が立て込んでいるんだ。また議会軍との戦闘が始まったらしい」
眉間に皺を寄せて言うグラスに、トールの顔も曇る。
「また、か。困ったもんだな。……俺も心配だし、ラフルはどうする?」
「俺も、クロエさんが心配。トール、探そう?」
「んじゃあ、決まりだな。まず、情報集めねぇと」
グラスは二人を凝視し、カチリと音を立ててティーカップをソーサーの上に置いた。
「君たちとクロエは、何度か会っているんだな?」
ラフルとトールは顔を見合わせ、ややして頷く。何が言いたいのかよく分からないという顔で二人はグラスを見つめた。
「あくまで僕の憶測なのだが、クロエは、君たちが羨ましかったのかもしれない。ショウさんは、あまり好意を表に表さない人だから」
「燮の奴……」
トールは強く拳を握る。クロエのいちばんは燮であり、だからこそクロエは中途半端にしか己を救えなかったことを知っている。羨ましかった、ということはクロエの感情に燮が応えていないということなのだ。
静かな燮に対する怒りがトールを包む。
見つけ出したら、一発殴ってやらねぇと。
心配そうな二人を見ながら、トールは心の中で呟いた。
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