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Cage-004
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あれからいったい、どれだけの時間が経ったというのだろうか。昼と夜の感覚がほとんどないここでは、日付の感覚すら狂っている。
燮が目を覚ますと、クロエの姿はなかった。起き上がろうとすると、じゃらりと重い音をたててベッドサイドに繋がる鎖が揺れた。いつの間にこんなものをつけたのか。足首を枷で繋がれている。
起き上がり歩いてみたが、ぎりぎり扉につく前に引っ張られる絶妙な距離だった。
逃げ出さないように、というクロエの不安感からだろうか。そこまでして、どうしてクロエは己に執着するのだろうか。
あの時もそうだ。クロエは闇に魂を売り渡してまで、燮を繋ぎとめ何もない燮の王国を作り上げた。
燮はクロエに囁かれるがままに、王としてクロエを可愛がった。あのときのクロエは懐刀として王となった燮にひたすらに仕えた。解放されることなど望まず、解放されたクロエはただ世界が壊れたことに涙を流していた。
がちゃり、と鍵が開く音が聞こえた。食料の入った紙袋を抱えたクロエが、戻ってきたのだ。
「おかえり、クロエ」
「ただいま、ショウさん」
焼きたてのパンの香りがひどく場違いに感じる。扉の向こうには、一瞬だけ日常が切り取られていたのを燮は見逃さなかった。しかしきっと、クロエはもう外界との繋がりを絶っているに違いない。
「美味そうだな」
「でしょう?食べたくなったんですよね。ふふっ」
嬉しそうに笑って、クロエはテーブルに紙袋を置く。クロエがぱちんと指を鳴らすと、がちゃりと音を立てて燮の足枷が外れた。
「うふふ…ショウさぁん……」
その音が合図だったのか。クロエはまた、淀んだ瞳でうっとりと笑った。
可愛い。燮はクロエをそう形容した。可愛らしくて、美しくて、どこか哀しい。こんなことを、今更思うなんて。
「クロエ、おいで」
驚くほど自然に、燮の口からそんな言葉が零れた。クロエは嬉しそうに燮に擦り寄る。そんなクロエを燮はそっと抱き寄せた。
己の中の、何かが変質していっている。闇にのまれてしまった時のように、強制的に変えられているわけではない。クロエに対する気持ちが、親愛や友情のようなものから、もっと危ういものへとすり変わっていく。
それはクロエが燮のもとを離れトールを救おうとした時に胸に溢れた感情。男遊びをやめないクロエに対して思った感情。苛立ち、なにかが引っかかり続けたときのそれだった。
どこか、優越感を覚え続けた己はいなかったか。クロエが依存するのは自分しかいないということに、満足した己はいなかったか。
自覚するとそれは燮の中の親愛や友情という優しい感情を蝕んで行く。どす黒いものが、己を満たすのを燮ははっきりと感じた。
擦り寄るクロエを優しく撫でる。
「……クロエには、俺だけしかいない」
言葉に出してみると、それはすんなりと、ジグソーパズルの最後のピースを嵌めるかのようにぴたりと収まった。
「そうです。私には、ショウさんだけ。今のショウさんには、私だけ……」
クロエはうたうように言う。くすくす笑うクロエの頬を手で包み込み、唇を重ねる。キスは深いものに変わっていく。舌を絡ませ、クロエを貪る。
完全に力を抜いてしまったクロエを、ベッドに組み敷く。淡白だと思っていた己にこんなに強く、欲求があるとは。燮はそう自嘲する。
「クロエ、お前を抱きたい」
昂奮しきった己の昂りをクロエの太腿に擦り付け、燮は低く囁いた。それだけで瞳が潤み、クロエはちいさく欲情の吐息を漏らし頷く。
あとはもう、理性などかなぐり捨て絡み合い、互いをを貪るだけだ。
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