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Cage-006
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「クロエ」
愛おしげに燮はクロエの名を呼ぶ。はっきりとした執着は、次第に燮を蝕んで行った。
「はい、ショウさん」
クロエの首筋には、紅い所有印が刻まれていた。それを満足げに見ながら、燮はクロエの灰色の傷んだ髪を撫でる。
「……明日は何の日か、覚えていますか?」
一日一日塗りつぶされたカレンダーを眺めながら、クロエは囁く。燮は首を捻った。一体なんの記念日だったか。
「やだなぁ、覚えてないなんて。ショウさんに会って、二年の記念日なんですよ」
「二年、か……」
『まだ』、なのか。それとも『もう』、なのか。ここにいると、そんな時間の流れなどどうでもよく思えてしまう。
「そうか。それなら明日は、腕によりをかけてご馳走を作らないとな?」
「ふふっ、じゃあ、今日のうちに買い出しに行ってきますね」
「お前は何が食べたい?」
「……唐揚げがいいかな、って。あと、お酒が欲しいですよね」
クロエはにこにこと楽しそうに言う。明日を心の底から楽しみにしているのだろう。その笑顔に燮の顔も綻ぶ。
燮にとってここにいることはもはや苦痛ではなく、外の世界とは馴染めないのではないかとすら思うようになってきた。
……それもいいかもしれない。この閉じた世界の中で、クロエとずっと、暮らし続けるというのも。
燮の頭の中から、クロエ以外の親しい人物の顔が消えていく。
「じゃあ、行ってきますね」
「ああ、気をつけてな」
クロエがドアを開ける。そこには今まで当たり前だった……今では異質なものでしかない喧騒があった。その音は今の燮にとって寂寥を誘うものではなくなっていた。ただただ、不快で不快で仕方のないものでしかない。
ぱたん、と扉が閉まるのを見届け、燮はやおら立ち上がる。掃除をしようと濡れ雑巾とモップを持ち出した。濡れ雑巾をかたく絞り、窓を拭く。大して汚れてはいないのだが、手持ち無沙汰だと家事がしたくなる燮のくせといってもいい。外の景色は相変わらず赤と黒がどろどろと渦巻く奥行きを感じさせないものだったが、不思議とそれが不快では無くなっていた。ここが、二人だけの愛の巣になるのなら、それもまたいい。
掃除で体を動かして、心地よい疲労に体が包まれる。ぼふ、と柔らかい寝台に身体を投げ出した。クロエが帰ってくるまではもう少しかかるだろうか。少し、うとうとする。目を閉じているうちに、眠りに引き込まれる。
そのまましばらく意識を手放していたらしい。
自分でも随分自堕落な生活をしているものだと、思う。目を開けると、まだクロエは帰ってきていないようだった。腹を空かせて帰ってくるであろうクロエのためにも、軽く何か作らなければ、とのろのろと起き上がる。
明日唐揚げを作るなら、今日は干した魚を炙るのがいいだろうか。あとは、野菜が足りないからサラダか何かで軽く作って、帰ってきてからあつあつの卵焼きでも焼いてやろう。
下拵えをしていると、がちゃりとドアが開く音がした。クロエが帰ってきたのだろう。そしてそれと同時にとても騒がしくなる。一体、何のせいだというのか。
どたどたと音を立ててクロエだけでなく他の人間がふたり、この空間に転がり込んでくる。
「トール……」
それは、燮の見知った男と見知らぬ青年だった。
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