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The last days-005※R-15
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当然、クロエを心配した燮の奴が、俺のところに来たよ。どうして知ったのかは知らねぇけど。
……俺のところにいるのが、クロエにとっちゃ幸せじゃねぇ、そう思ってたから、俺はクロエを突き放して、燮のところに戻るように仕向けようとした。……クロエが帰ったらまた、路地裏に戻ればいいって、そう思ってた。
けど、あいつは燮の手を突っぱねて、俺の元に留まった。……燮の馬鹿が少し酷いこと言っちまって、クロエは俺の腕の中で泣いてたよ。泣くくらいなら、戻りゃいいのに。
しばらく……だいたい、一週間くらいか。一緒にいたな。クロエは俺のそばで、なんで俺と燮の間にこじれがあるのか、ずっと聞きたがって……。理由を言ったら、あいつ、俺と燮との間を取り持つって、聞かなくて。
『トールさんにも、理由があった』って俺を庇ってよ。どうやったのか、俺にはわからねぇけど。もう一度燮と面と向かって話す機会が来たんだよ。
クロエは終始俺を庇って……あいつはとんでもない馬鹿だ。あんなに大切で世界であるはずの燮に、俺を認めさせるために、あんなに……よ。
結局、燮もクロエに折れて、『クロエが信用する俺だから』って、……やっと俺、燮の奴に謝れたんだよ。あの時突っぱねて、乱暴して、いびって、嘲笑ったことを。
で、クロエは帰ってった。引き止めやしねぇよ。あいつの幸せは、燮のところにいることなんだから。
そっからは、たまにあいつらんところに行ったり、ある程度、普通に付き合えるようになった。燮のやつもたまに俺に世話焼きに来たり、な。
……けど、俺がしたことは変わらねぇし、逆になんていうか、罪の意識で、押しつぶされるっていうか……。クロエのおかげで、俺の中の、止まってた時間が動き出した。それは事実なんだが。その動き出した針の音が、俺をずっと苛んで、眠れなくなる。結局、酒に溺れて、路地裏で眠る回数は減らなくて……ずっと、どうやったら楽になれるかって、考えてたよ。
……そんな時に会ったのが、お前なんだ。
トールは、まっすぐにラフルを見つめていた。そして気弱げに笑って見せる。
「あとは知っての通りだ。……ありがとう、ラフル。……俺と、出会ってくれて。好きになってくれて。プロポーズを受け入れてくれて。愛して、くれて……」
ラフルは不意に、トールを抱きしめた。その厚い胸板に、愛おしげに顔を摺り寄せる。
「……どうした?」
「わかんない。……けど、なんか、トールが俺の前から、消えちゃう気がして」
「……いなくなりは、しねぇよ。俺は、お前のものなんだから。お前の許可なくどっかに行ったりなんか、しねぇ」
ぼんやりと呟き、トールは陶然とラフルを抱きすくめる。そして、その大きな手のひらは決して厭らしいものではなく、ラフルを、ラフルの存在を確かめるかのようにその全身をなぞる。
「俺の、ラフルだ……」
「そうだよ?俺は、トールのもの……」
くすくすと笑いながら、ラフルはトールの耳元で囁く。二人の視線が絡み合う。彼らの瞳は、互いしか映さないようにか、膜が張ったかのように濁っていた。恋は人の価値観を狂わせる。互いにとって、互い以外のものは取るに足らぬものに、塗り替えられていた。
強すぎる想いは歪み、他人には決して理解されないであろう域にまで達してしまっている。それでも二人にとってはそれが幸福なのだ。
「……聞いてくれて、ありがとうよ」
「ううん。話してくれて、ありがとう」
二人静かに抱き合い、その影は一つに重なった。無心にまぐわう、傷だらけの二人はただただ互いを求める。愛していると囁いて、心と身体を繋げひとつになっていく。互いを呼ぶせつなげな声。
それはトールの傷を癒すかのように、夜の闇を優しく照らす月のように。二人の部屋を静かに暖かく、満たして行った。
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