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46.✩スケッチブック
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✩✩✩✩
楓さんに記憶が戻ることに不安や怖さを感じたことを伝えた。そうしたら楓さんは、無理に戻らなくてもいいと言ってくれた。
いつ記憶が戻るのか分からないし戻る時は昨日みたいにじわじわくることが多くて、戻った記憶に飲み込まれてしまうんじゃないかって怖くなって……。でも楓さんに話を聞いてもらったおかげで、記憶が戻る事が怖いとは思わなくなった。
……たぶん、前の俺も楓さんの一言で簡単に立ち直れたり救われたりしたんだろうな。
時間が解決する……か。
あまり焦っても仕方ないと思い、流れに身を任せることにした。
どんなことが記憶が戻るきっかけになろうが気にしない。俺はちゃんと今の俺として生きて、前の俺と向き合おう。それに、楓さんと過ごしていた俺がどんな人だったのかも気になるし……怖がってちゃいられない。
「あれ?どこいったかな?ここに仕舞ったはずだけど……」
楓さんが買い物に行った隙を見計らって、俺は自分の部屋に来てあるものを探していた。
楓さんの話によると前の俺は……自分で言うのも変だけど、ムードメーカーで人気のある人だったらしい。卒業アルバムにもそれが見て取れる写真が何枚もあったし、友達とスキーやキャンプへ行った時の写真もあって結構な活発な性格だったようだ。
そんな前の俺は絵を描くことが得意だったようで、部屋の一角には画材やら絵を描くための道具やらが置かれていた。大学でやっていることもそういう系だし、けっこう熱心に取り組んでいたみたいだ。
「あ、あったあった」
探していたのはスケッチブック。この前ちらっと見た時、このスケッチブックにはたくさん人物画が描かれていたはずだ。
「わ、すごい……」
笑ってる人、泣いてる人、空を見上げている人。ページをめくる度にいろいろな表情の人がクロッキーだったり色鉛筆や絵の具だったりで描かれている。そして、そのどれもが楓さんだった。前の俺は楓さんをモデルに描いていたらしい。
中には俺が見たことのないような顔をしているのもあった。前の俺はこんな笑顔が見られたのか。普通に羨ましいと思った。
そう思うと同時に、これらを描いている時の気持ちが蘇ってくるような感じがした。ああ、楓さんを描いてるときの俺、幸せだったのか。
他にも山積みになっているスケッチブックをあさってみたけど、人物画は何枚もなくほとんど風景画かデザイン画だった。そうすると余計にこのスケッチブックだけ、なんだか特別に思えてくる。
……俺も、描けるかな……。
スケッチブックの中の幸せそうな楓さんが忘れられなくて、机の上に転がっていた鉛筆をとった。
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