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155.✧手紙
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✧✧✧✧
旭と桜姉を見送ってからずっと仕事をしたり家事を片付けていた俺は、いつものように気分転換をしようと海に来ていた。
時折思い出したように冷たい風が吹く中、冬の海をただぼーっと眺めてるだけで他には何もしない。
こんな寒い日に海に好き好んで来る人は俺くらいで広い砂浜に人影はない。
夕日が沈むのを見届けないうちに歩いてマンションまで帰る。あと二時間くらいしたら二人が帰ってくるだろう。掃除と夕飯の支度でもして待っていよう。
エントランスに入ってポストを確認すると、仕事関係の封筒やはがきに紛れて一通の手紙が入っていた。
全部まとめて部屋に持って行って、リビングのテーブルにばさっと投げ置いた。ソファーに体をあずけて手に取った手紙と向き合う。
軽く心の準備をしてから封を切って便箋を取り出す。数枚に渡って書かれたそれは、俺にとって心底どうでもいい事だった。どうでもいい事だけど、どうにかしなくちゃならない事だった。
「……またか」
最近届くようになったこの手紙。確かこれで三通目だったか。差出人は顔も知らないような親戚のおばさんだ。
一通目の『娘と会ってほしい』から始まり、今日のこの手紙で『娘と結婚してほしい』まできた。行く気はないけど、こっちの都合も考えずにお見合いの日程を書くのはどうなんだろう……。
ざっと目を通して深いため息を吐くと、便箋を破り捨てた。この前確認したところ、祖父母と両親を通して進めている話ではないらしい。両親たちも初耳だったそうだ。それなら俺が行動を起こさない限り話は進展しないだろうから返事は書かない。前からこの手の話がないわけでもなかったけど、必ず両親を通して来ていたからまさか直接手紙をよこすなんて。
だいいち、一族内での自分の立場を良くしようとしているのが見え見えだ。どうせ、実家を継ぐ予定の長男である兄には既に相手がいると踏んで、比較的自由な次男の俺に目をつけたといったところだろう。
平坂一族の中で、特に分家の人は少しでも本家に近づこうと躍起になる人が多い。様々な業界に手を出して大きくした会社と財産、地位と名声が手に入るかもしれないから。その可能性を夢見て近づいたって意味なんてないのに。
今まで本家に取り入ろうとした分家の大人たちをたくさん見てきたけど、下心だけでやっていけるほどうちは甘くないらしい。
親戚だか何だか知らないけど会ったこともない女と結婚する気はないし、どれだけ娘との結婚を勧められても、旭じゃないなら俺はいらない。俺は旭との関係を両親に認めてもらっているし、やっと手に入れたものを手放そうなんて端から思っていない。
変なものを読んだせいか無性に旭が恋しくなってきた。郵便物を片付けて、早く帰って来てくれないかな……と一人寂しく夕食を作りながら待っていると、玄関の方から「ただいま〜」と桜姉の声がした。
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