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178.✩せめて
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✩✩✩✩
電話がかかってきた楓さんが寝室から出て行ってベッドに一人きりになると、さっきの出来事が思い出されて一気に恥ずかしくなって悶えた。
まさか声でイくなんて……。
自分で与えていた刺激は耐えられるくらいだったし、いくら我慢していたとはいえ毎日聞いてる楓さんの声でイかされるなんて思ってなかった。
……声だけでイっちゃって、い、淫乱、とか思われてたら……。
さっきまで恥ずかしさで火照っていた体が急に寒くなった気がした。楓さんがそんなこと思うはずがないって分かってるけど、頭の片隅では『もしかしたら……』って考えてしまう。
俺の体……いや、体だけじゃなくて全部、もう楓さんなしじゃ生きていけないんだって突き付けられているようで胸が苦しくなった。だって、お見合いのこともまだ片付いたわけじゃない。もしも、そんなことになった日には正気じゃいられないだろうけど、お見合いの話が進んで楓さんと離れなくちゃいけなくなったら……。もう生きていけない。
毛布に包まってぐるぐる考えてると、電話を終えた楓さんが戻ってきた。
楓さんは俺が機嫌を悪くしたと思っているらしくて、ベッドに上がってきて何回も俺の名前を呼んだ。その様子が猫が気を引こうとしているみたいでちょっと可愛いかった。
「………あっくーん……」
普段聞けない甘い声で楓さんが抱きしめてきた。甘えてきたことにドキドキして楓さんの腕に収まると、またさっきの痛みがじくじくと胸のあたりに広がった。
楓さんのことは大好きだ。それこそ声だけで感じるくらいに。きっと前の俺の生活も楓さん中心に回っていたんじゃないかな。
でも、それと同時に楓さんと一緒にいるのが怖い。もしいつか離れ離れになってしまったら、って考えてしまう。楓さんのいない世界なんて、色を失って味気ないものになると思う。それこそ、病室で目を覚ましたときみたいに。
俺はかなり楓さんに依存してるから、一緒に過ごした幸せな時間がある限り、それを失った時の恐怖や虚無感は何倍にも膨らむんだ。
「旭ー、機嫌直して?」
楓さんが困ったように笑ってそう言った。
機嫌が悪いわけじゃないんだ。
ただちょっと、悲しいことを考えてしまって気分が落ち込んでるだけ。
「俺のおねがい、嫌だった?」
嫌じゃなかったよ。
あんな恥ずかしいことでも、楓さんが喜ぶのならやってみたいとさえ思った。
誰よりも何よりも楓さんのことを愛してるのに、俺は男だから楓さんの子どもを産めない。結婚だって難しい。それに、胸を張って楓さんとの関係を周りに伝える強さも持ち合わせてない。
それが、なんだかすごく、悔しかった。
だけど、せめて……、声だけで感じちゃうくらい楓さんが好きだってことも、俺はもう楓さんがいないとだめだってことも、知っててほしい……。
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