アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1.名前で呼び合う
-
朝、ニュースを見るためにテレビをつけていると、街角インタビューがあっていた。
「恋人同士の呼び方ってあるんですか?」
インタビュアーが、通り過ぎのカップルにそう訊ねる。カップルは、お互いを見つめて顔を赤らめた。
「ああ、あるんですね!」
「は、はい。私は彼氏のことをゆうくんって呼んでます。」
「俺は、純たんって。」
あああああああああああ羨まし!!
朝っぱらからカップルの惚気を見せつけられていらだちながらも、その番組を見続ける。
何だろう、一人もしゃもしゃとトーストを頬張る自分の姿が、虚しく感じる。
思えば、俺とアイツは苗字でしか呼び合ったことがない。いや、俺なんてもっとひどくて”アンタ”としか呼んだことがない気が……言われてみれば、恋人同士という実感がわかないのもそのせいなのかもしれない。よし、思ったら実践あるのみ!!
俺はトーストを急いで食べ終え、皿を流しに持っていって水につける。そして、手帳を手に取ってリストに書いた。
1.名前で呼び合う
さて、手帳に書いたもののどうやって名前で呼び合う状況を作り出そうか。今日は木曜日だから、2限と3限は同じ授業だな。うーん、取り敢えずエレベーター前で待ち伏せしてやろうかな。
俺は、荷物を手に取り部屋を出た。
「うわ!」
アイツが俺の部屋の前で待っていたので驚いた。
「そんなに、驚いた? おはよう。」
声を殺しながら笑うコイツは、田辺淳也(たなべ あつや)。多分俺の恋人。多分と言っているのは、コイツが俺の告白の返事をはっきりとしていないからだ。
「なんだよ、待っててくれてたんなら連絡しろよな!!」
じろりと見つめれば、微笑みながら謝ってくる。
ああクソ! かっこいいじゃねーかよ!
「増村? どうした? 顔赤いよ?」
「アンタのせいだよ!! 驚かせんなよ! 俺だって心の準備が必要なんだよ……あ」
って、今コイツの名前を呼ぶチャンスだったんじゃないのか?! 俺、チャンスを無駄にした!!
「なんかよく分かんないけど、今日も元気そうでよかった。」
「あ、アンタもな。」
あ、またアンタって言ってしまった!!
頭を抱える俺をよそに、田辺は黙々とエレベーターの方へと歩いていく。
「あ、ちょっと待って!」
俺も急いで田辺のもとへと駆け寄る。
「今日の放課後さ、空いてたりする?」
二人で乗り込んだエレベーターの扉が閉まるとき、田辺が訊ねた。
予定を聞かれることなんて滅多になかった為、田辺から訊ねられたことに舞い上がってしまう。でも、そんな表情を見せるのは恥ずかしかったので、俺は田辺の方を向かないで答えてしまう。
「俺、バイトもしてないし。いつだってアンタの為なら暇だよ。」
「ふーん、そっか。」
そっけない返事が返ってきたのがショックで、奴の顔をのぞき見る。そこには不気味な笑みで俺を見る田辺の顔があってギョッとした。
え、何? ちょっと怖いんだけど。
背中から変な汗が出る。
「増村、ついたよ。降りないの?」
いつの間にか閉鎖されていた空間が解放されていた。
「お、降りる。」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 40