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1.名前で呼び合う ―決意―
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エレベーターを降りてからというもの、田辺は無言で俺の隣を歩く。
「あの、さ。」
「何?」
チラリと高くにある顔を見れば、優しく微笑み返される。
「どうして、今日の予定なんか聞くわけ?」
そう問えば、「んー」と困った顔をされた。俺は何かまずいことを聞いてのだろうか。
「増村。今日さ、なんの日か知ってる?」
「え?」
「知らないんだ。」
あはは、と笑って続けられる。
「ま、お楽しみってことで。」
「は?」
ニコリ。その表情の田辺とは反対に、眉間に皺を寄せる俺。
何だよそれ、気になるじゃんか!!
「増村? 機嫌悪くしないで。ね?」
「うっせー! 俺は機嫌悪くないし。」
そっぽを向けば、ため息の音が聞こえる。そして、直ぐに俺の手に温かい手が触れる。
「は?!」
驚いて自分の手を見れば、手が握られていた。
「駅までの間だけ、だから。」
「ちょっ! おい!」
田辺が、俺の前をずかずかと歩き始める。俺よりも身長のある田辺は歩幅が大きい訳で、付いていくのがやっとだ。それに加えて、今はコイツの顔が見えない。
ねえ、今どんな顔してる?
俺は、嬉しい。
だけどアンタは、一体何を思って手を繋いでる?
若干早歩きになり、俺の息は上がる。
「ちょっと! きつい! たんま!」
先に根を上げたのは俺の方だった。
「あ、ごめん。」
漸く振り向いてくれた田辺は、気づかなかったと言わんばかりの顔だった。手は繋いだままだ。正直言って、嬉しいが恥ずかしい。朝っぱらから誰かにこんな現場を見られたらどうするんだ。でも、今まで俺はコイツに引っ張られて歩いていたから、決して恋人には見えてはいないんだろうな。
ちょっと悲しいな。
「増村?」
いつの間にか田辺が俺の顔を覗き伺っていた。
そうだ。こいつは俺のことを恋人だなんて思っていないのかもしれない。あの時だって、友達としての好きで、一緒にいたいって意味も友達としてってことなのかもしれない。俺は、決心したじゃないか。
ギュッ……
手帳が中に入っているカバンを、握り締める。
俺はコイツを振り回してきた。同じようにお前は俺を振り回す。
俺はコイツと一緒にいたい。友達としてではなく、だ。
だから、もう一度頑張るんだ。
お前に俺を、恋愛感情で「好き」と言わせるために。
「あのさ。」
頑張るんだ。
「あのさ、田辺。」
勇気を出して。
「俺……”カンカンカンカン――”……っ!!」
悲しくも、目の前の遮断機が降りて行く。
遮断機の音で、一気に気が抜けてしまった。
はあ……
まあ、また言えばいいか。
チラリと、握られた手を見る。その次に、田辺の顔を見れば目が合った。
「あ……」
俺を、見ている。
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