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1.名前で呼び合う ―親しいの意味―
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ずっと口元に力を入れて渋い顔をしている田辺。右隣には眉間にしわを寄せている俺。
電車の中では、先に歩いていた俺に追いついた田辺がすぐ隣に来て、隣の座席に座った。その動作があまりにも自然で違和感は無い。ふと横にある顔を見上げれば、口元に力が入っていて渋い顔をしている感じだった。
何だよ、ありがとうとか言っておいて本当は俺に名前で呼ばれるのが嫌とかそんな感じじゃないのか? 俺ばかりが意識していて、アホみたいじゃねーか。
田辺をチラリと盗み見ては、一人ドキドキしている。そんな自分が情けない。
いつもよりちょっと人の多い電車、座席には辛うじて座れる程度。その為、俺と田辺の距離は近い。体が密着してしまっていると言ってもいいくらいだ。こんななんでもないちょっとした出来事で俺の心臓は高鳴る。
「そういえばさ」
突然、田辺が口を開いた。
「そういえばさ、リストって今どうしてるの?」
こちらを向いてそう訊ねられる。
リスト? あの日以来リストのことなんて全く話に出てなかったのに、今日突然リストのことを聞いてくるとか、いきなりどうしたんだ?
「リスト、机の引き出しの中にずっと入れっぱなしだから最近は何も書いてない。」
取り敢えず、俺は嘘をついた。だって、正直に今やってることを話すのは恥ずかしいし、バレてしまっては作戦の意味がなくなってしまうのだから。
「そっか。残念。」
横の様子を伺う。田辺は残念そうな顔をしていた。
「あのさ、何で残念とか思うわけ?」
「ん? あのリスト見るのが好きだったから、かな?」
「は? 何だよそれ。」
コイツの考えていることは余り分からない。
「アンタはさ、何かが変わったと思う?」
「え?! 何の?」
「っ言わせんな!!」
「え! 主語がないと、分かんないよ。」
おろおろとするアンタ。そして、「あ。」といった。どうやら俺が言いたいことが何なのか分かってくれたようだ。
「親しくなったと思う……増村と俺のことでしょ?」
答えは間違っていない。俺のいいたかったことも分かってくれていた。
だけど、不満な点がひとつ。
「親しくなった……ね。」
果たしてアンタの親しいと、俺の望む親しいは同じなのだろうか。
窓の外へと視線を移してぼんやりと考えてみたけど、全く分からなかった。
もうすぐ大学近くの駅に着く。
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