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1.名前で呼び合う ―いつものこと―
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大学についてから、田辺と一緒に講義のある教室へと向かう。
ぐぅうううう
「は?」
「あ」
突然横からけたたましい腹の音が鳴った。
「ごめん、増村。俺、朝ごはん食べ損なっててさ。腹が減ったみたい。」
「は?! アンタ、朝、俺の部屋の前にいたじゃんか。それで朝食抜きってバカじゃないの?」
「ははは、そうなんだけどね。」
「全く。今日多めに弁当作ってきたから。昼休みになるまで待ってろよ。」
「ありがとう。」
教室についた俺たちは適当に席を見つけて隣り合って座る。これも、いつものこと。
田辺の言うとおり、俺たちは親しくはなっている。
俺の横に田辺がいる時間も増えたし、いつの間にかそれが普通のことのように捉えてしまっている自分がいる。
右にはアンタがいて、アンタの左には俺がいる。
俺とアンタは真面目な方だから、授業中はお互いに私語をしない。でも、授業が終わると「難しくてよくわかんねー」とか、そんな他愛もない会話をする。アンタと一緒にいればいるほど、アンタといることが普通になる。考えてみれば、それは贅沢なことで。贅沢さに慣れてしまった自分がいる。
特に木曜日は贅沢な日だ。重なっている授業も多いし、放課後にアンタがバイトに入っていないときは一緒に帰ったり、寄り道をしたり、時にはどっちかの部屋に行ったりできるのだから。
「増村。」
授業直前に田辺が俺に言う。
「ごめん。書くものなんか貸して。」
どうやら、筆記用具を忘れてきてしまったらしい。俺は呆れながらも消しゴムとシャーペンを貸した。
田辺はぼうっとしていることが多い。その為だろうか、忘れ物もよくある。だから俺は田辺のために常にルーズリーフと控えの筆記用具を用意している。
俺がアンタに尽くすのも、いつものこと……か。
切なくなって、俺は一人苦笑いを浮かべる。
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