アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2.赤面させてやる―作戦1―
-
リストに作戦を書き込んだ俺は、即座に田辺のバイト先へと走る。日が沈んだ空には、いつしか雨雲が掛かり、雨がパラパラと降っている。実は、これも俺の策には欠かせないものの一つだ。
手には、もうひとつの傘。
今日は夜にいきなり雨が降ると夕方の天気予報で言っていた。朝の時点ではそんなことを言っていなかったためか、道行く人は傘がなくて困っている人がたくさんいた。
そう。アイツもきっと傘を持っていない!
あんなふわふわなアイツが傘など持っているはずがない!
時刻は21時55分。アイツがバイトを終えるのは22時。きっと店の中から、「傘持ってきてないや。どうしよう。」と困っているに違いない。そこを俺が格好良く「はい。」と傘を渡せば、俺に惚れるはず!
ニヤけながら、俺はコンビニへと走る。
「あ。」
「よ。」
丁度、アイツが店を出るのと俺が店に着くのが一緒のタイミングだったらしい。俺の予定としては、息を整えてから会いたかったのだが、まあいい。
「アンタさ、傘、持ってないだろ?」
走ったせいで、セリフが途絶え途絶えになってしまう。目の前の田辺は、目を一瞬開いたあと、フッと笑った。
「ありがとう。」
そう言った後、俺が渡そうとしていた傘を受け取らずに、俺の傘の中に入ってきた。
「相合傘して帰ろう。」
「は……」
俺は思わず照れてしまった。
「ああ、増村。こんなに濡れてたら、傘の意味ないじゃん。」
くすりと笑う田辺。カバンからタオルを取り出して俺の頭を軽く拭く。
「ちょっ! ひっくしゅん!」
「ほら、風邪ひくよ? 俺の家についたらタオル貸してあげるから、さ、早く帰ろう?」
俺の濡れて冷たくなった背中を、田辺の温かい腕がやんわりと押した。そのはずみで俺は前へと足が動く。
あれ?
この展開って、違うんじゃねーの?!
俺はもっとこう……
「ありがとう、増村。お、俺、お前のそういうところ好きだぜ?」
って照れながら俺の傘を受け取ってくれるのをイメージしてたんだが……
俺の方が照れてんじゃねーか!!
早歩きで歩く俺と、それについてくるアンタ。
くっそ! いつもニヤニヤと余裕のある顔をしやがって!
チラリと見れば、微笑み返される。
ああ、ムカつく!
俺が早く歩いていたせいか、思っていた以上に早く田辺の部屋の前についた。
「さ、真澄。中に入って。」
優しい声。部屋に着くと必ず俺の名前を呼んでくれる。
「お、おう。」
俺はいつまでたっても名前呼びに慣れない。
部屋に上がれば、タオルが渡される。田辺だって、相合傘をしたせいで半分濡れているのに。
「淳也はいいのかよ?」
心配だ。
「俺は直ぐに着替えられるから大丈夫。はい。これ。」
温かいお茶を用意してくれ、俺にマグカップが渡される。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
作戦1、失敗だな。
お茶を飲んで、体の中がポカポカしてきたところでそう感じた。
田辺のカバンの中からは、折りたたみ傘が入っているのが見えた。
アイツ……
「あ。」
俺がそれに気づいたときに気まずそうに笑う田辺。
「どうして黙ってた。」
渡されたバスタオルにくるまってそう問えば、田辺の目が泳いだ。
「その、せっかく持ってきてくれたのに、折りたたみ持ってるなんて言えなくて。
……それに、嬉しかったし。」
目を細めて言う姿に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
ああもう!
何なんだコイツは!
俺が恥ずかしい!
作戦1は失敗したけど、次の作戦2こそは成功させてやるからな!
お茶をすすりながら、俺はまた新たにそう決心した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 40