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2.赤面させてやる─作戦2─
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「へっぷしゅん!」
まだまだ策はある。
温かいお茶を飲み干してしまったマグカップは、温度を失って徐々に覚めてきている。俺は、それを台にコトンと置いた。
作戦2実行だ。
「ほら、真澄。これ着ろよ。」
くしゃみを出す俺を心配して、着替えを差し出してくれた田辺。
「ありがとう、へへ。」
俺は素直にそれを受取り、どこで着替えたらいいのかと目で問いかける。
「ああ、あっちが脱衣所だから、そこで着替えてこいよ。脱いだら、洗濯機の中に直接入れてくれてていいよ。選択しとくから。」
「うん、分かった。じゃ、借りる。」
「うん。」
へへへっと笑いながら、俺は脱衣所へと向かう。
そう、これは作戦2「笑顔でてれさせよう!」を実行しているのだ。
決して、嬉しくて素直にだらしなく笑って見せているのではない。計算で笑っているのだ。
さっきは、田辺を女の子の主人公側に見立てて演出をしたから失敗したのだ。あんな、鈍感で乙女心とはかけ離れているアイツがキュンキュンなんてするはずなどなかったのだ。
だから、今回は田辺をヒロイン側に立てて考えた作戦を実践してみている。よく、少女漫画では主人公がふと見せる微笑みにヒロインが頬を赤く染めるシーンがある。それで、俺は急に笑い出したという訳だ。
「お、着替えてきた?」
「うん。」
ぼうっと背を向けてお茶を飲んでいた田辺がこっちを見てきたので、俺は一瞬で笑顔になる。田辺はというと「ちょっとシャツが大きかったみたいだな。」と言って、微笑んだあと直ぐにマグカップへと視線を戻した。
え? それだけ?
「淳也、隣いい?」
「え? いいよ。」
俺が笑顔になっていることに対して無関心な態度を取られたのが気に食わないので、横に座ってみる。田辺はこちらをチラリとも見ない。
「淳也、着替えなくていいの?」
悔しいので、視線の先にあるマグカップを手で取り去り、俺の方を向かせる。驚いた顔をするも、直ぐに微笑む田辺。
「大丈夫だよ。お茶飲んだら温まってきたし。」
「じゃあさ、こうしようぜ。」
俺は、肩にかけていたバスタオルを半分だけ田辺にかけてやった。俺と一緒にバスタオルを肩に掛け合っている状態で、俺と田辺は密着する形になる。これでどうだと、田辺の方を見てやる。
「うん、温かい。」
田辺は、体操座りになって、顔をうずめていた。
「もしかして、眠いのか?」
「うん、ちょっとだけ。」
「……ごめん。」
「え?」
膝に埋められていた顔が起き上がり、こちらを向いた。
「どうして真澄が謝るの?」
「いや、疲れてんのに、今日は夜ご飯に付き合ってくれたし、今もこうやって……。」
今もこうやって……今、俺は大胆なことをしていないか?
すぐ近くに顔がある。肩から感じるぬくもりも直にあって。
「真澄? 大丈夫?」
「へ?」
気づいたら、近くにあった顔がすぐ目の前まで来ていた。額と額とが重ねられている状態だ。
「真澄、熱い。」
「え?」
即座に額が離れたかと思ったら、田辺が勢いよく立ち上がり、近くのタンスの引き出しを開け始めた。
「淳也?」
「風邪ひいてるでしょ?」
「風邪?」
「そう、風邪。」
「え、と。ひいてないと思うけど。」
「嘘。体熱いし、くしゃみだってさっきから出てる。」
「あ、あった。」と言って、田辺は市販の風邪薬を俺に渡してくれた。
「あ、ありがとう。」
「いいから、今日はそれ飲んでぐっすり寝ろよ。」
「う、うん。」
「今日は泊まってけ。」
「淳也?」
若干苛立っている田辺の方を見れば、ため息をつかれた。
「いいから。心配なんだよ、真澄が。ほら、立って。」
ぐいっと手首を掴まれ立たされる。連れて行かされた先には、田辺のベッドがあった。
「ここで寝てて。いろいろ用意してくるから。」
田辺は俺をベッドに寝かせ布団をかぶせたあと、キッチンへと歩き始めた。
バスタオルを一緒に肩に被せ合っても、照れてくれなかったな。
そう言えば笑顔になるのも忘れていたし。
そして、俺看病をされているし。
どうやら、作戦2も失敗のようだ。
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