アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
番外編 2
-
『12月の幸せ』
12月に入って、真澄の様子がおかしい。
「真澄、おはよう。」
「あ、淳也……おはよう。」
真澄の部屋の前で待ち伏せをするのはいつものこと。それは、冬の寒い時期になっても変わらない俺の恒例行事。
「真澄、最近出るの遅くない?」
「え? あ、そう、かな?」
どこかボウっとしているその姿を見て、ああ今日も徹夜したのかなと思う。
そう、12月に入ってからというもの、ずっとこの調子なのだ。
「何をしてるのかわからないけどさ、体調を崩すなよ?」
一瞬だけ俺をチラリと見て、目を逸らされた。心なしか、真澄の頬が赤く染まっているように見えた。でもそれが、寒さのせいなのか俺のせいなのか判別は出来ない。
俺のせいだったらいいのにな。
なんて呑気に考えてしまっている自分がいて、恥ずかしい。
「淳也。」
「な、何?」
今度は俺がボウっとしていたので、突然俺の名前を呼ばれて驚いてしまった。
「お前、俺の顔見すぎ。」
大きめのマフラーに顔をうずめて、上目遣いで俺を見てくる真澄。
「あ、ああ。悪い。」
今日も真澄は可愛かった。
「あのさ、真澄。」
俺はそわそわしながら真澄の手を握った。
「な、何だよ。」
エレベーターの中のため、手を握っていることに関しては抵抗しない。そればかりか、俺よりも小さな手がギュッと握り返してくれた。
「今日、真澄の部屋に来てもいい?」
少し冷たい君の手が、ぴくりと動いた。
「ごめん。今日も、その、だめ。」
「どうして?」
目を合わせようとしない。
「どうしてって……あ、今部屋が散らかってて見せらんねえんだよ。」
エレベーターの扉が開くと、君の手が俺の手からするりと離れていく。
まただ。
君は一体何をしているんだろうか。
夜ふかしをし続けているようだし、俺を部屋に上げてくれなくなったし。
何か、俺に隠したいことがあるのだろうか。
不安になる。
*
学校に着いて、真澄の隣に座る。真澄はぐるぐるにまいていたマフラーを取りながら、俺を見ている。
「淳也ってさ」
「ん?」
「寒さに強いの?」
「え? なんで?」
「いや、防寒具を身につけてるとこ見たことないから。」
何故かそこで照れた顔を見せる真澄。俺は疑問に思いながらも笑って答えた。
「強くはないよ。」
「え? じゃ、なんで付けないんだよ。」
「引越しの時に実家から持ってくるの忘れたから……かな?」
恥ずかしいことに、今俺のマフラーは実家のタンスに眠っている。
「そうなのか。」
真澄の口元を見ると、にやけていた。
俺が寒さに強くないということを知って、嬉しいのだろうか?
……仲間意識が芽生えた、とか?
プッ!
俺は一人考えて吹き出してしまった。
「な、何にやけてんだよ。」
「え? にやけてた?」
いけないいけない。俺は、真顔に戻すように努力をする。
「淳也。」
呆れた目で俺を見ている君。
「クリスマスイブは……俺の部屋に、来いよ?」
「え?! 来ていいの?」
「あ! 当たり前だ! 逆に来なかったらお前のこと嫌いになるからな!」
「え! 嫌いになるの? いや、来るけど……」
「いいから! 約束だからな!」
君の耳が真っ赤になったところで、教授が来て授業が開始してしまった。
あー、クリスマスイブが楽しみだな。
*
12月24日が特別な日になったというのに。
「え……。」
「お願い! 田辺君以外の子に代わってもらえるようにお願いしたんだけど、みんなダメでさ……」
クリスマスイブ一週間前。俺は、バイト先の斉藤さんから頭を下げられている。内容としては、クリスマスイブに入っている斉藤さんのシフトを代わりに代わってほしいというものだった。
「いえ、その、俺も困りますよ。」
「そんな! お願いだ! この通り!」
頭をペコペコとさせる斉藤さん。
どうしたものか……
俺はとうとう断れなくて、シフトを交代してあげることにした。
24日の17時から22時まで、君と過ごせる時間が減ってしまう。
それ以上に、君に言ったらどんな顔をするだろうか。
嫌われたくない。
失望されたくない。
悲しませたくない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 40