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番外編 3
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『12月の幸せ』続
「淳也、どうかしたの?」
この前俺が君に訊いた言葉がそっくりそのまま俺に返されている。
「う、うん。」
シフトの交代の件があってから、一日が経った。
俺はまだ君にそのことを言えずにいる。早く言わなければと思う反面、君の反応が怖くて言えないという思いが俺を邪魔する。
「あのさ、クリスマスケーキなんにする? 俺さ、チョコレートケーキがいいんだけど、どう?」
眩しい。
目を輝かせて、ケーキのパンフレットを握りしめている君。
今、俺の部屋にいる。二人で24日の話をしている最中だ。これほどまでに苦しい時間はない。
どうしよう。
余計に言えない。
いや、でも言わなくちゃ!
俺は意を決して口を開いた。
「あのね!」
「うわっ! 何だよ! 突然大きな声出して!」
「俺、バイト、入っちゃったんだ……」
目の前にあった目から、輝きが消えてゆく。
ほら、だから言いたくなかったんだ。
「な、んで?」
困惑と悲しみの混じった顔で、俺にそう訊ねる。
「ごめん。」
「いつ?」
「17時から22時」
涙目の君。
「お前さっ!……」
何かを言いかけて、君は口をつぐんだ。そして、ぐっとこらえながら笑顔になる。
「お前、馬鹿だろ? 22時になったらバイト先まで迎えに来てやっから……だから、その後俺ん家に来い。」
「ごめん。」
「謝るなら、最初っからバイト入れんな! 馬鹿! アホ!」
どんどんと、力なく俺の胸を叩く真澄。
俺はジタバタとする真澄を抱きしめることしかできなかった。
*
24日当日
「田辺君! これ着て!」
「え?」
店長から差し出されたのは、サンタクロースの服だった。店長も、そのほかの今日シフトに入っていた人達もそれを着ていた。
「お客さんに少しでもクリスマス気分を味わってもらうためだよ! あとは、店員も楽しみたいだろう? ってことで着てね!」
俺は、苦笑いを浮かべながらそれを着た。
大学2年生の男がサンタクロースの格好だなんて、恥ずかしい。第一、自分はそんな柄でもないので、余計に恥ずかしいのだ。
この姿を君が見たら、どう思うだろう。
そんなことをボケっと考えていたら、店長がニヤニヤしながら言った。
「何? もしかして今日田辺君恋人と予定があったりしたのかい?」
俺は苦笑いを浮かべて仕事に取り掛かった。
*
あともう少しでバイトが終わる。
サンタのコスプレともこれでお別れだ!
という時に、君が店内に入ってきた。
ぐるぐるに巻いているマフラーは、君が巻いているというよりか、君がマフラーに巻かれているようにも見える。
君は俺を見つけたとたん目を見開いて、じっと見つめている。
「淳也……」
ああ、恥ずかしい。
俺はあがる時間になったので、真澄にちょっと待ってもらうように言った。
「お待たせ。ごめんね、今日は。」
着替え終わってから真っ先に君のいる店内に入る。君は外が冷えていた為か鼻と耳を赤くさせていた。
「別に。準備に時間がかかってたから、これくらいが丁度いいし。」
君なりの気遣いが見えて、俺は嬉しくなる。
「な、何だよ。さっきまでサンタクロースだった奴には笑われたくねーな。」
「まあまあ、早く帰ろう。」
真澄の背中を押して、店の外へと出た。
「あ、待って!」
少し歩いたところで、君は立ち止まる。少し大きめのカバンから、袋に包まれた何かを手に取り、俺に突き出した。
「ほら、これ! 受け取れ!」
「え……」
「早く!」
どうやら、俺にくれるらしい。俺は真澄から受け取って中を取り出した。
そこには……
「淳也はいつも、ボウっとしてるからな。俺が淳也の分のマフラーをやるよ。これで実家用とこっち用あるから大丈夫だろう。」
「ありがとう。」
ところどころ網目が違うマフラーが入っていた。きっとこれは手編みのマフラーだ。俺は早速首に巻く。
「どうだ?」
不安気に俺を見てくる君。
「うん。あたたかい。」
俺がそう答えると、ホッとした表情を見せた。
あ……
「ねえ、真澄。一つ聞いてもいい?」
「いいけど。」
「もしかして、最近真澄が寝不足だったのも、真澄の家に俺を上げてくれなかったのも、このマフラーが原因だったの?」
ぎょっとする君。
「なっ何だよ。さ、さーな! もういいだろ? いくぞ! 今日はシチュー作ったんだ。早く食べて温まろうぜ。」
そう言いながら、俺の手を握って先を歩く君。
12月24日は人生で最高のクリスマスイブになった。
君の思いが詰まったこのマフラーにも、俺の手を握ってくるとても冷たいこの手にも。君との幸せに、体がポカポカしてくる。
いつか、必ずお返しするからね。
メリークリスマス、俺の小さなサンタさん。
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