アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
番外編 9 (バレンタインデー)
-
しょんぼりと玄関付近でつっ立っているそいつの手を握って、座るところまで引っ張る。もそもそと着いてきている。
淳也が座ったのを見て、俺はため息混じりに言った。
「何で、そうなるかな?」
だって、普通俺が嫉妬する場面だろう?
「西……絶対真澄に気がある。」
「は?」
ろくに目も合わせずにそう言われて俺は更に苛立った。
「西、料理上手でイケメンって皆噂してるのは、真澄知ってる?」
「……当たり前だ。」
漸くこちらを向いたかあと思えば、その瞳は揺れていた。
「じゃ、体育の時、毎回真澄の体をジロジロ見てたのには気づいてた?」
え? ジロジロ?
「その様子じゃ、気づいてなかったのか。」
「お前、嫉妬し過ぎだろ。アイツ、男だぜ?」
「俺も男。」
「ま、まあ、そうだけどさ……。」
「それと、真澄と一緒にいる俺を見る時の目つきも怖い。」
「は? あの爽やかイケメンがそんな目付きするわけ「してた。」……。」
嫉妬モードの淳也はとても面倒くさい。
イライラした俺は、言い放つ。
「じゃさ、淳也は俺が西に恋心でも抱くとでも言いたいのかよ。」
……何でそこで黙り込むんだよ。
ムカつく。
本当に、ムカつく。
俺がお前以外の奴に目を向けるとでも?
「笑わせんな。」
淳也は、気まずそうな表情をしている。
怒りからか、悲しさからか、湧き出てくる言葉……
「お前に惚れたのは誰? お前に好きと言ったのは誰? リストまで作ってお前に振り向いて欲しくて頑張ったのは誰? 出来もしなかった料理をお前のために特訓しているのは誰?
誰だよ、答えろよ!」
カッと沸き上がった頭。いつの間にか胸ぐらを掴んで揺らしていた。
「ま、すみ……泣いてる?」
「答えろ!!!」
「……」
「俺を、なんだと思ってんだ! 馬鹿かお前は!!」
目一杯揺らす。淳也はただ揺らされている。
力をなくした俺は、掴んでいた胸ぐらから手を下ろして、その場でしゃがんでしまった。
なんでだろう。
涙が止まらない。
何が悲しい?
嫉妬は嬉しい。
でも、
でもだ、
信頼されていないのかな……ってさ、思うじゃんか。
しばらくして、淳也が俺を抱き占めながら「ごめん。」と言った。
「謝るんなら、最初っから嫉妬すんな!」
「うん、そうだね……ごめんね。」
「お前は俺が惚れた男なんだから……胸張ってろ馬鹿!」
「うん。」
優しくて大きい掌が、俺の頭を優しく撫でる。
嗚呼もう、苛立っていたはずなのに……
「好き……」
「うん……あ。」
淳也の手が止まった。気になった俺は目線の先を見つめる。そこにあったのは……今朝失敗したチョコだった。優しく俺を見てやんわり笑ったあと、直ぐにその場から立ち上がってチョコレートのもとへと歩いていく。
「だ……め……!」
出遅れながらも反射的に体が動いて止めにかかる。だが、ヤッパリ遅かった。
「真澄、これ……」
完璧、見られた。
恥ずかしさから言葉も出ないでいると、淳也が形の悪いそれを口にして微笑んだ。
「美味しいよ。」と。
俺は急いで残りのチョコを奪った。
「馬鹿! 馬鹿淳也!!」
「えっちょ!」
「こんなんじゃないんだよ!」
「え?」
「俺は、ちゃんとしたのを……その……食べて欲しかったんだよ……」
「ちゃんとしたの?」
「そうだよ! 綺麗に形が出来てるやつ! これじゃ、ボッコボコのハートだろ?!」
淳也は少しだけ笑って言う。
「確かに、ボッコボコだね。でも、それが真澄っぽくて好きだけどな?」
「はぁ?!」
ニヤリ。そんな顔で淳也は「不器用な愛。なんかいいよな。」と言った。
「そんなんじゃ、満足出来ねーだろ?」
「ん? 満足だけど?」
「うそだ! 最近じゃ、手作りチョコは3位なんだぞ!!」
「え? なにそれ?」
「わ! 笑うな!!」
笑いをやめない淳也。そして、奪ったチョコを持っている手ごと引き寄せられる。
「これ、全部頂戴。」
お前の優しい微笑みに、勝てるわけがない。
「馬鹿……。」
ありがとう、そう言った淳也が俺の唇にキスをした。
甘い甘い、キスの味。
ハッピーバレンタイン。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 40