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「知ってる?此奴の付き合っている相手。何度聞いても教えてくれないんだよ。」
僕はご飯を口に運びながら知らないと答えた。
「そうか。始めは絶対上手く行かないだろうと思っていたけれど、お前も相手を好きになったって事だろう?結婚しているわけじゃあるまいし、情だけじゃこんなに長くは続かないよな。」
「…え?」
僕は手を止める。
「おい!余計な事を言うな!」
彼は慌てて話を遮ろうとする。
「此奴さ、相手の子に告白されて、断るのが可哀想だったから付き合う事にしたって言ったんだよ。」
可哀想だったから、僕は可哀想だったから恋人にしてもらえたのか。彼を見ると一瞬目が合い、すぐに逸らされた。
「酷い奴だよな。そんな気持ちで付き合ったって相手の子が辛いだけだろうって俺は反対したんだけれど、心配する事なかったな。」
良かったよ、そう言ってその人は笑った。
「そう、ですね。」
僕はどうすればいいのか分からす、無理矢理に笑顔を浮かべ、止めていた手を動かし黙々と食事を続けた。
店を出ると、僕はコンビニに寄ると言い、二人と別れた。あれからずっと彼の視線を感じていたけれど何も気付かないふりをし続けた。時計を見るとまだ少し時間に余裕があり、近くの土手沿いまで歩き、ベンチに座った。
「可哀想、か。」
男が男に無謀な告白をしてもどうせ叶うわけないのに、可哀想に、そう思ったのだろう。彼は優しいから、だから僕の告白を断る事も出来ず、好きでもないのに僕と付き合ってくれていたのだ。
彼は、優しい人だから。
「良かった、見つかった!」
ベンチの後ろから彼の声がしたと思うと、彼は僕の隣に座り勢いよく頭を下げ謝った。そして焦った様にさっき言った事は違う、誤解だと言った。
「君は、優しいね。」
僕は俯いたまま立ち上がった。
「今まで、ごめんね。長い間、僕を好きでもないのに、恋人にしてくれてありがとう。でも、もう十分だ。」
そう言うと顔を上げ彼と向き合い、頭を下げもう一度ありがとうと言い、立ち去ろうとした。
「ちょっと待って、それどういう意味?別れるつもりなのか?」
「…君は、僕を好きなの?」
彼の表情が曇る。それでも何か言おうと必死に言葉を探している様だった。でも結局、好きだとは言ってくれない。それが彼の気持ちなのだろうと思う。
「君は、優しい。誰にでも、男を好きになる様な僕にだって優しかった。」
責められるのは彼ではない、僕だ。
「本当は気付いていたんだ。君は、僕を好きじゃないって。」
僕は背を向け今度こそ彼の前から立ち去った。
僕に向けられた視線や態度に、僕に対する恋人へ向ける様な感情は全くなかった。それでも、恋人である事に縋りつき事実を認めなかったのは自分自身だ。酷いのは彼ではない。彼の優しさに付け入った、僕だ。
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