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失うこと
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仕事場の床に座り込み、持ってきた酒をすっかり飲み干した2人は泣き疲れたのか、子供のように丸くなって寝息をたてはじめた。
開いたドアにもたれながら2人を見つめる。
「布団持ってこないと。7月とは言っても床で寝ると風邪ひくかも」
いつの間にか家に置いてある2人用の布団を引っ張り出して仕事場の床に敷いて寝かせる。 次、目を覚ませば、またいつものように2人は笑うのだろう。
痛みを隠すのがうまいのだ。
2人とも。
確かに傷はそこにあるのに笑顔で前を向こうとする、強い人間。
その強さが羨ましいよ。
俺は弱いから考えてしまう。
俺たちは本当に幸せになれるのか。
時計に囲まれたこの部屋ごと、世界の時間から取り残されてしまうのではないか、と。
カチカチコチコチ....... 時計の音に包まれる。
時計の音が雨の音を消してくれる。
小学生の頃、1番好きだった本は眠れる森の美女。
王子様のキスで眠りから覚めるなんて羨ましいとずっと思っていた。
お姫様になりたかった。
父親は本ばかり読む俺が外へ行って遊ぶよう自転車を買ってくれた。
母親は多分気づいていた。
俺が無意識にまるで年頃の女の子のように同じクラスの男の子の話をしていることに。
両親は厳しかったけれど、笑顔の優しい人たちだった。
もう記憶の中にしか存在しないから、確認のしようがないが。
2人の乗ったバスが事故にあったのは俺が12歳、小学6年生の時だった。
俺とまだ5歳の弟をおいて両親はいなくなった。
俺は弟の手を握りしめたまま泣いた。
きっとその右手の温もりがなければ立ち上がれなかったのは俺の方だ。
守らなければいけないものがあったからあの頃の俺は今よりずっと強かった。
その弟に拒絶されたのは2年前。
高校1年生になった弟は母親似の俺と違って父親似だったからか、身長はもう同じ位になっていたっけな。
両親を失った俺たちは母方の祖父の家であり職場だったこのアパートの4階に2人で住んでいた。
電話での会話を聞かれてしまったのだ。
泣いて携帯を握りしめたあの記憶はきっと消えることはない。
あの時は必死で周りが見えていなかった。
もっと気をつけるべきだった。
弟は親戚の家へ逃げるように行ってしまった。
2年前、俺は大事な人を2人も手放した。
弟と.........恋人。
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