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恋の時計
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「晶さん!あーきーらーさーん!」
「う.....ん....」
目を開けると、すぐそば、鼻がくっつくくらいの距離に圭太郎の顔があった。
「うぁあっ!」
思わず手が出た。
「あがっっ」
「わっ悪い!」
「ほんと、晶さんってキレイな顔してるのに手が出やすいよねー」
殴られた頬を抑えながら困ったように笑う大きな男は童話に出てくる優しいクマのようだった。
「俺、寝てたのか」
「うん、疲れてたのに急に押しかけてごめん。咲希は仕事に行ったよ」
「いや、もう慣れっこだ」
立ち上がろうと床に手を着く。
「いっって」
腰に痛みが走る。
「床で寝ちゃったから痛めた?」
おいおい、俺はまだ25だぞこれくらいで....
「うっ」
おとなしく圭太郎に手を借りることにした。
情けない。
すぐに引っ張り上げられた170cmにしては軽すぎる自分の体重を少し恨んでみる。
寝室の端におまけのようについた小さなキッチンに立たせてもらい、朝食の準備を始める。
「ごめん、俺ももうそろそろいかなきゃ」
「そうか。...もう、大丈夫?」
「俺も咲希も恋愛運ないよねー」
あははっと笑うその目は赤い。
「この世界は厳しいよ、本当に。」
俺に背を向け、ドアノブに手をかけたその背中が少し震えていた。
「毎回、今度こそは運命の人だって信じてるのがバカみたいだよね」
「そうだな。...遅れる、仕事。」
圭太郎に近づいてバンっと大きな背中を叩く。
「行ってきます!」
「おう」
大丈夫だよ。
またきっとその背中を優しく抱きしめてくれる人が現れるから。
2人は少し一途すぎるだけなんだ。
俺はもう、そこまでのめりこめる気がしない。
のめり込みたくない。
もし、一人一人に恋の時計があるとしたら。
俺の中にある恋の時計は2年前の雨で止まってしまった。
修理できるかもしれない 。
方法はまだ見つからないけれど。
ま、探す気もないが。
自嘲気味に笑おうとした頬が引きつった。
「よし!」
自分に活を入れる。
味噌汁作って、食べて、 隣の仕事場に行って、店の準備でもするか。
…腰がまだ痛いけど。
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