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変わってない
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トントンと、肩を叩かれて我に返る。
「大丈夫ですか」
いつの間にか目を覚ましていた巽の顔がこちらを見ていた。
本当に変わってないな。
その瞳も髪も、何もかも。
2年でそんなに変わらない、か。
それに、病人に心配されるほどぼんやりしてたのか、俺は。
懐かしい記憶が蘇ってきていた。
そういえば、3年間待ったと言っていたことを聞いてみても上手くはぐらかされてきたな。
結局聞かずじまいだった。
もう聞くこともないだろうけど。
日が高く昇っていた。
11時。
今日は仕事が手に付かない気がする。
斎藤さんと、岡田さんの時計は明日修理しよう。
「何か飲む?」
「水、貰っていいですか」
「あの、さ、その喋り方」
その声で敬語を話されるとどうも落ち着かない。
「いいよ、普通に喋って。同級生だし」
「分かった」
「…」
遠慮なし、か。
少し笑みがこぼれた。
どこか偉そうな所も変わってない。
「病院に連れて行こうか?」
「いや、いい」
「なんで?」
「黒崎に記憶が全部戻るまで帰ってくるなと言われた」
「…黒崎さん」
銀縁眼鏡の神経質そうな人が頭に浮かぶ。
高校の時からたまに巽を迎えに来たりしていた、所謂お目付役みたいな人だった。
「そもそもなんで店の前に倒れてたんだ?」
聞きたかったことを口にする。
「わからない」
「……そうか」
それでも、お前がここに自分で来たのには何か理由があるんじゃないかと期待してしまう。
「なら、少し整理してみる?俺のことと、何が思い出せないのか」
思い出して欲しいといえば嘘になる。
目の前の顔が俺から背けられるのをもう見たくない。
もう何も出来ずに後ろ姿を見送ることはしたくない。
でもここで協力しなければ勘のいい巽のことだ、何かあると疑われるに決まってる。
「高校から、大学を途中でやめた時までの記憶が曖昧なんだ」
……ちょうど俺が関わってる時期だ。
忘れているのは俺の事だけなのかもしれない。
「…それは、忘れててもいい事じゃないのか?今してる仕事にだって支障はないんだろ?」
「思い出さなければいけない気がするんだ」
「……なんで」
なんでまた突然姿を現してこんなに俺を乱すんだ。
「なんでだろうな」
少し困った表情にはまだ疲れが滲んでいる。
もう少し寝ろとベットに押し戻し水を含んで重くなったスーツを洗面所へ運ぶ。
スーツはクリーニングだな。
ポケットを探る。
タバコ、吸うようになったのか。
携帯は……切れてる。
香水、財布。
小さな袋に入った硬いものが出てきた。
ドクンと大きく心臓が跳ねた。
その袋には見覚えがある。
「……まさか、な」
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