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これからも
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「にいちゃん、行儀悪い!」
「………うわっ!」
気がつくと俺の箸からは白米がことごとく溢れ落ちていた。
「ごっ、ごめん!じいちゃん」
「ちゃんと片付けるんだぞ」
「うん…」
黙々と夕食をかき込むと4階の部屋に戻る。
「じいちゃん、にいちゃんどうしたんだろ。
病気かな、大丈夫かな」
「あぁ、病気だろうな」
「えーっ!!どうしよう!」
「大丈夫だよ。恋煩いというやつだ」
「こいわずらい?どっか痛いの?」
「痛いだろうな。すごく痛い」
「痛いのなんかいやだよ!」
訳もなく礼が足をバタつかせる音が一階のダイニングに響いた。
あの日の夜に電話があった。
いつもと同じ携帯に、同じ相手。
ただその相手との関係が変わっただけでこんなに会話がしにくくなるとは思っていなかった。
「こっ、こんばんは」
こんなに畏まった口調で話した事なんてない。
耳に押し当てた機械の向こう側から堪え切れないようにくっと喉で笑う音がした。
「なんだ、それ」
けれどそんな事に構っていられるほど頭の中は冷静じゃない。
「た、巽はなんで…っ…」
つっかえる声を無理やり吐き出す。
「なんでお前のこと好きになったか、ってこと?」
「う、ん」
「…お前は?お前から言えよ」
携帯を持った手が汗でじっとりするのがわかる。
小さい頃から対象が同性であったこと、巽を好きになったのははっきりと区切りがある訳ではないこと。
本当に、いつの間にかって感じだった、と途切れ途切れに話す。
お前は?と聞き返せば、俺もそんなもんだと返されて巽はそのまま言葉を続けた。
必死で俺のこと見ないようにしてて可愛くて面白かった、と言われた時は顔から火が出そうだった。
「……っ」
いつからばれてたんだ。
うまく隠していたつもりだった。
「……」
「……」
「次の休み、どっか行くか」
「え、あ、うん。行く。」
「ぷっ、ははっ」
「なんだよ」
「随分素直になったな」
「…うるさい」
「明日、大学のカフェで会おう。迎えに行く」
「…わかった」
「じゃあな。晶、好きだよ」
プツ、プープープー
「………あー」
ダメだ。
切られた。
名残惜しく、耳にそれを当てたまま天井を仰いだ。
今絶対、俺、気持ち悪い顔してる。
携帯を握りしめ、ベッドに仰向けになる。
目を閉じて大きく息を吸い込む。
夢、じゃないよな。
巽を思う。
髪と瞳の色は亡くなった母親譲りだと言っていた。
少し偉そうで、曲がったことが嫌いな性格。
見た目に似合わないお子様な味覚。
ピーマンが苦手だと聞いた時は笑ったな。
人をからかうのが好き。
俺が高校の屋上で寝ている間に髪を編まれたこともあった。
その時は、寝顔を見られたことで頭がいっぱいだったけど。
体育祭のリレーで、ぶっちぎりだったのが面白くなかったのか、バトンを持った手を観客席に向かって振りながら走っていた。
そのあと、抜かれて、ゴールすれすれで抜き返した時は本当に、…かっこよかった。
………俺、相当気持ち悪いな。
高校生活で覚えているのはあいつに関係することばかり。
多分それはこれからも。
火照った顔を冷やすように窓を開け放し、涼しい春の夜風を感じた。
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