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夕飯の前に
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「ただいま」
金曜日。
仕事から帰ると、玄関で自分の脱いだ靴を揃える。
ついでに、ハイカットのスニーカーも揃える。
ティンバーランドとかいうブランドの、若い男の子の間で流行ってるやつだ。
と言っても、俺もまだ24だけど…靴なんて履きやすければ何でもいい。
昔から勉強に追われてばかりで、服装に気を遣ったこともない。
でもまぁ、センスが悪いと言われたこともないので、今さらもっとオシャレしようとも思わない。
「おかえり、ひなー」
乱れたベッドの、乱れた布団の間から、整った顔立ちが覗く。
お菓子を食べる手と、携帯を弄る手を止めて、嬉しそうに俺を見つめて笑っている。
──堕落している。かなり。
「…寝ながら物を食べるな。人のベッドの中で物を食べるな。携帯を弄りながら物を食べるな。行儀が悪い。というか夕飯前に物を食べるな。それと、靴を脱いだら揃えろっていつも言ってるだろう」
「……ひなのお母さん」
口を尖らせて呟きながら、その身体を起こす。
─茅原 真浩(ちはら まひろ)。
長身で手足が長く、色白で、男の俺から見ても綺麗な顔立ちをしている。
が、見ての通りヘラヘラしていてだらしない。おまけに働いていない。
一応アルバイトはしているようだが、ほとんど俺に寄生して生活している。
バイトと、たまにコンビニに行くのを除けば、一日中部屋でゴロゴロしていることになる。
今年で二十歳になるから、そろそろアウトだろう。
「…それだけお菓子を食べたなら、今日の夕飯はなくてもいいな」
「やだぁ!ひなとご飯食べるー…」
困ったような声を上げて、子どものように抱きついてくる。
あぁもう、でかいくせに鬱陶しい。
「わかったから抱きつくな。大人しくしてろ 」
なおもくっついてくる真浩を引き剥がして、夕飯を作り始める。
寒いからシチューにしようと思う。
「ねー、洗濯物入れといたよ。えらい?」
「うん、偉い偉い」
「外すげー寒いね!超手冷えた」
「当たり前だろう、冬なんだから」
「違うよ、そうじゃなくて」
適当に話を流していると、後ろから抱きしめられた。
腕が背中から前に回されて、耳に息がかかるくらい、すぐ近くに顔があることがわかる。
「…いつもありがとう」
耳元で、低く甘い声が響く。
俺が耳弱いの知っててやってるんだろう。
たちが悪い、と思うけど、身体は嘘をつけないようで、力が抜けそうになる。
「っ…何だよ、急に…」
「ひな、いつも頑張ってくれてるから」
ぎゅっと抱きしめられて、身体が熱くなる。
耳まで真っ赤になっているのが、自分でもわかった。
「…ひなちゃん可愛い。食べちゃいたい」
「調子に乗るな」
腹に回されていた腕をはたくと、ぺちっと音がした。
いてっ、と小さな声を上げた真浩を無視して、料理を再開する。
「…好きだよ、ひな」
俺の耳に再び甘い声を響かせると、名残惜し気に離れて、リビングに戻った。
はぁ、と小さく溜め息をつく。
何でこんな奴好きになっちゃったんだろう。
「ひなちゃん、見て!この猫めっちゃ可愛い!」
そんな俺の憂鬱をよそに、次の瞬間に真浩はもう、テレビに映った猫に心を奪われていた。
猫にすら嫉妬する俺も十分アウトだろう、と思いながら、夕飯の後、デザートにさっき買ってきたプリンを美味しそうに食べる真浩を想像していた。
──おまけ──
「昨日、俺がシチュー食べたいって言ったの覚えててくれたの?」
「…たまたまだ」
素直になれないひなちゃんと、そんなところも大好きな真浩くん。
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