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閑話6-7
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「俺...、昔何にも持ってない空っぽの人間で...若が救ってくれたんです。麗さんが人の温かさを教えてくれたんです。そんな人間だから、何かしようと思ったら人並み以上の努力が必要で...そんな自分が大嫌いで...」
そのまま部屋を出ようとした山瀬だが、後ろから柚木の静かな声が聞こえて立ち止まる。
「自分が大嫌い」と柚木が言ったのを聞いて胸がちくんと痛んだ。
「でも...今、山瀬さんが怒ってくれて...嬉しかった...有り難う、ございます」
「...」
「あの、ちょっとだけ...甘えても、いいですか...?」
「...へ...?」
吃驚して思わず振り返ると横になったまま、山瀬を見つめる瞳と目が合う。
「眠るまで、傍にいて...手繋いで下さい...」
「え、ゆずくん...どんな心境の変化?」
「だめ、ですか?」
少し寂しそうに訊く柚木にぶんぶんと首を振る。
「そんな...ダメなわけないじゃん!」
「ふふ、じゃあ...お願いします」
「いいけど...でも、僕...少し自惚れちゃうよ...?ゆずくんは僕のこと頼ってくれるって...」
「そうですね...こんなこと言ったのは山瀬さんが初めてです」
穏やかに笑う柚木の枕元まで近寄り、恐る恐る頬を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる柚木。
「僕、ゆずくんのことが好きだよ。君が自分の事嫌いなら、僕がその分ゆずくんを好きでいる」
「俺なんかでいいんですか?」
「またすぐそういうこと言う...僕はゆずくんがいいの」
「...俺のこと捨てたら許しませんから」
「勿論、そんなことしないよ」
「よかった...」
「そろそろ眠って。話はこれからいつでもできるよ」
にこりと笑って言ってやると柚木も安心したように笑った。
「あ...山瀬さん、やっと笑った...俺、山瀬さんの笑ってる顔、好きです...」
そう言って目を閉じた柚木に山瀬は内心溜息を吐く。
もう、怒ろうと思ってたのに...そんなこと言われちゃ、怒れないじゃん...
柚木が完全に眠りにつくまで、枕元に座って手を繋ぎ、さらさらな髪を梳いた。
「おやすみ」
ゆっくり休んで。それでとびっきりの笑顔で君の「おはよう」が聞きたいな。
しばらく柚木の寝顔を眺めているとスマホが通知音を鳴らした。
画面に映るのは獅琉からのメッセージ。
『柚木、大丈夫そうか?体調が良くなるまで絶対出勤させんなよ』
獅琉らしい少し素っ気ない文面に笑う。
────ゆずくん、ほらね、君のことを心配してくれる人はこんなに近くにいるんだよ。世界でたった一人みたいな顔をしないで、君は愛される為に生まれてきたんだよ。
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