アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
帰省
-
学校からずいぶんと離れた車体は懐かしい景色の中を進んでいく。
視界の隅に流れるように消える景色を車窓からぼんやり眺めていると不意に運転席から声がかけられた。
「ごめんね太一君、もうすぐ着くからね」
疲れたでしょ?と続いた言葉に長山は窓の外から視線を外し車内へと顔を向けた。
「いえ、大丈夫です。こちらこそすいません」
「いーのいーの気にしないで。馬鹿息子のついでだから」
「おい、誰が馬鹿息子だ」
長期休暇に入ると帰省する際は、柏木の母親が迎えに来る車に長山も一緒に乗って実家へと帰る。
昔から知っている柏木母は、柏木とは違いよく笑う快活な人、という印象だ。
運転席に座る彼女とバックミラー越しに目が合う。
「ミナちゃんと会うのも久し振りでしょ?結局春休みは帰って来なかったし、寂しがってたわよ?」
それには苦笑で返す。
ちなみにミナとは長山の母親の名前である。
ヴヴヴヴヴ........
再び外の景色に意識を向け始めた時、手の中の携帯端末が着信を知らせた。
すぐ止まったところをみるとメールのようだ。
ヴヴヴヴヴ........
確認しようと指を動かした瞬間、再び微かな振動があった。
続けざまに送られてきた2通のメールにそれぞれ目を通すと緩く口角を上げ返事は返さずスマートフォンの電源を落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「だからこそ落ちる瞬間を見るのは面白いんだ」
そう言った長山に櫻川は神妙な面持ちを作り、阿南はにこやかに口角を吊り上げた。
「下は落ちた。そしたら次に落とすのは上だろ?」
瞳が愉悦に細められ、ニヤリと口元が笑みを作る。
「そして、これはお前達にしか出来ないことなんだ。期待してるね」
長山がそう言えば同じ性質である阿南は勿論断ることなんてしない、長山の願いを叶え且つ自分が最大限に楽しめる方向に持っていく。
櫻川の場合は長山のことは大好きで大切で守りたい存在ではあるが、時々垣間見せる子供のように残酷な部分に戸惑うことも少なくない。それでも結局のところ長山の願いはどんなことをしてでも叶えたい、と思ってしまうのだけれども。
そしてやはり長山の想像通り二人は揃って首を縦に振るのだ。
「はい」
「まかせて~」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから数日とおかずに親衛隊のトップを落とすべく動いたらしい。
まったく良くできた駒だ
俺の期待を裏切らない
長山にしては珍しく仮面を被ることも忘れひどく悪い顔をしていたのだろう、隣に座る柏木が訝しげな視線を送ってきた。
それには何も答えずとびきりの笑顔で返すと再び意識を窓の外へと向ける。
掻き上げられた前髪の下には眼鏡などとうになく、隔てる物がなくなったその瞳は窓から差し込む光によってより一層輝きを増した。
これで副会長と書記の親衛隊は意味のない存在となった。会長と会計のところは櫻川と阿南が纏めているのだから元々なんの問題もない。
最初から長山の思いのまま動かすことができたのだから。しかしそれをしなかったのは、すぐに潰れられるのはつまらないから。
だが今はその心配もない。
舞台は整った
「・・・・ふはっ、最後まで楽しませてくれよ?」
小さく呟くように吐かれた言葉は、走行音に掻き消され車内の誰の耳にも届くことはなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 128