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心から、純粋な
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住宅街を抜け、多くの人で賑わう繁華街から離れた場所にある今は使われていない倉庫群。
その一つに数人の少年達がいた。
皆一様に黒っぽい服を着ているが、その特徴的過ぎる髪色だけは誤魔化しようもない。
鈍い音を轟かせ開けられた扉。
入ってきたのは黒い衣服に身を包んだ赤い髪の少年と同じく上から下、全てを黒で被っている少年。
言わずもがな柏木智哉と長山太一の二人だ。
辛うじて電気は通っているようで剥き出しの豆電球の光が弱々しくその顔を照らしつける。
「ここでこうやってお前達と顔を合わせるのも久し振りだな」
長山の言葉が空気に溶け壁にぶつかり反響する。
「まぁ、あっちでも嫌ってくらい顔見てるけどね~。特に駄犬とは」
「圭介、それじゃ駄犬がどっちにかかってるのか分からないよ。その場合はうざいくらい駄犬の顔ばかり見ていた、が正しいんじゃない?」
「おぉ!真也あったまいぃー」
「お前よりはね」
「・・・・・・・・てめぇらいいかげんその口閉じねぇと舌噛みきることになるぞ」
「お前達少しは学習しなよ。それじゃあ学校と変わらないよ。・・・・あーやっぱり口寂しいかな。柏木コーヒー持ってない?」
「ねぇよ。コーヒー味の飴でも舐めとけ」
「だったら今すぐ買ってきてくれるかい?」
「てめぇで行け」
カフェイン中毒よろしくコーヒーを求める倉橋を柏木は軽くあしらう。あしらわれた倉橋は手厳しいね、とさして気にもしていないように肩を疎める。
その奥では矢崎、澤城、脇坂が今にも殴りかからん勢いで睨み合っている。
とそこへ吹き出したような笑い声が聞こえた。
穏やかだったり、険悪だったりした空気は一瞬で拡散し、全員の目線がその音の元へと向かう。
「・・・・ふはっ、はははっ」
「た、太一さん?」
いっそ清々しいほど大きな口を開けて笑う、その珍しい姿に誰もが呆気にとられるなか脇坂が恐る恐る声をかけた。
しかしその声にも答えることはなく(答える余裕がないという方が正しいが)より大声を上げて笑い続ける。そのうち、お腹痛いお腹痛い、と言ってやっと収束の兆しを見せた。
「あー・・・・こんな本気で笑ったの何時振りかな」
目尻に浮かんだ涙を拭いながらも再び笑いの波に呑まれそうになった長山を引き留めたのは、いち早く我に返った柏木だった。
「・・・・太一、訳もなく笑うな」
「ははっ、ごめんごめん。ちょっと懐かしいなと思ってね」
「懐かしい?」
「2年ほど前までは毎日のようにココへ来て、今みたいにくだらないことで笑いあってた。だけどあそこに行ってからはそれもなくなった。寮でも教室でも毎日のように顔は合わすけど何かが違う。違和感みたいなものを常に感じていた」
「いわかん~?」
「檻に入れられた動物は野生の時のようには生きられない。それと一緒さ。封鎖された空間の中で俺達は知らず自分をセーブしていた。それがココに来て本来の自分らしさを取り戻したってとこかな」
― だから俺はそんなお前達を見るのが嬉しい ―
そう言って笑った長山の顔は子供のように曇りのない純粋なものだった。
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