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誰にだって嫌いなものはある、でしょ?
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綺羅びやかなメインストリートを抜けるとひっそりと建つ落ち着いた雰囲気のバー。
来客を告げる鐘の音が、静かな店内に響き渡る。
カウンターにてグラスを繊細な手つきで磨いていたこの店のマスターであろう男はその音に手を止め入り口へと目を向けた。
「いらっしゃい。お前達がここに来るのも随分久し振りじゃないか」
「マスターおひさ~」
「あれ?マスターまた白髪増えたんじゃない?」
「余計なお世話だ」
カウンター越しに軽口を叩きながらも再会を喜ぶ矢崎と澤城。その間を無言で通り過ぎ椅子に座る影。
「なんだ、お前達のリーダーは御機嫌斜めか?・・・・太一元気にしてたか?」
マスターの言葉にも頬杖をついたまま何も答えない。
その様子に呆れながら、柏木と倉橋はテーブル席へと、脇坂は長山の側に立ち、矢崎と澤城はそのままカウンター席へと腰を下ろした。
「・・・・・・・・・牛乳」
「は?」
「牛乳」
間髪入れず同じ単語を繰り返す。
それにマスターは息を吐き出し長山の前にコップに注がれた牛乳を差し出す。
涼しげなグラスに淹れられた白い液体。
目の前に置かれたソレに、しかし長山は手を伸ばそうとはしない。
ただじっとソレを見つめる。
いやこの場合睨み付けると言った方が正しいか。
その様子を他はじっと見つめる。
そして意を決したようにソレに手を伸ばした。
ゆっくりと口許に運ばれるグラス。
しかし一口飲んだところで動きが止まった。
そして静かにテーブルへと戻されるソレ。
長山の眉間にはこれでもかと皺が刻まれている。
苦々しく言葉が吐き出された。
「やはりこれは人外の飲み物だ」
「残念ながらそれはちゃんと人工的に作られた物だ」
「じゃあ、最初にそれを作った人はきっと疲れてたんだね。じゃなかったらこんなもの作ろうと思うわけがないよ」
長山はすでにそれを飲むのを諦めたようだ。
曰く人外の飲み物を手で押しやり遠ざける。
「お前まだ飲めないんだな。自分から言い出したからてっきり飲めるようになったと思ったんだが」
「これは俺には必要ないもの、カルシウムは別のものから取るからいいんだよ」
それよりも、と長山はマスターの目を見て問う。
「俺の狗知らない?」
「狗?・・・・・ああ、お前に妙に懐いていた三馬鹿トリオか」
マスターは顎に手を当て暫く思考を巡らす。
「ここ最近姿は見ていないな」
「・・・・・そう」
長山はそう言って牛乳の代わりに貰った冷水を口に含んだ。体に染み渡るような冷たさにほぉと息を吐く。
「そ~いえばここ儲かってるの?俺的にはまだこの店があったことがビックリなんだけど」
澤城が溢した疑問ももっともで、現在時刻は10時を少し過ぎたところ、酒飲みにとって夜はまだまだこれからというもの。それなのに、だ。この店には今長山達しかいない。つまり、長山達が来る前は客は1人もいなかったということだ。
「ほっとけ」
マスターはそれに余計なお世話だと返す。
「・・・・・・3年前だったか?あのBLACKとかいうチームがこの街から消えてからはさっぱりだな。お前達もめっきり来なくなったからな。これでも気にしてたんだぜ?」
マスターはカウンターの向こうから手を伸ばし長山の頭を少々乱暴な手つきで撫でまわす。
「ちょっと止めてよ。皆して俺を子供扱いして成長期だってこれからだから」
そう言うと椅子から立ち上がった。
「狗もいないみたいだしここにはもう用はないね。行くよ」
長山を筆頭に其々が言葉を溢しながら店の出入り口へと向かう。
「太一、また来いよ」
それにちらりとマスターを視界に入れると太一は緩やかに微笑んだ。
「気が向いたらね」
そう言って再び夜の街へと消える漆黒に彩られた影をマスターはひどく優しげな眼差しで見つめていた。
普段は子供に見られるのを嫌い、無理に大人ぶっている節があるが、その中身は正真正銘ただの子供だ。そんな子供をマスターは愛しく思うと同時にほっとけないとも思う。
だがそれは恋愛的な意味合いではなく、どちらかと言えば父性のような。
もっと言えば祖父と孫のような。
そこでマスターははたと気づいた。
これでは自分のことを爺と言っているようなものではないか。
俺はまだ若い、はずだ、と。
マスターはカウンターの下から鏡を取りだし顔を覗きこむ。
そろそろ白髪染めでも買おうか
そう思いながらマスターは先程まで長山が座っていた椅子を見て目尻に皺を刻みもう一度柔らかく微笑んだ。
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