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幕間~あるマスターの呟き~
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あれと出会ったのはいつになるだろうか。
もう随分昔のことのように感じる。
それだけあいつも俺も若かったということだろう。
そう、あの日も今夜と同じ。
客と呼べるような人間が1人もいないなかでカウンターで自分のために淹れたカクテルを楽しんでいた。
ただその日の空は酷く荒れ模様だった。
カランカラン
小綺麗な音を響かせ開けられた扉。
珍しく来客を告げたそれに顔を上げ
「いらっしゃ・・・・」
い、と続くはずだったそれは音となることはなかった。
入り口に立つのは年幾ばくもしない子供。
しかし驚いたのはそこではない。
この街では子供がこういう所に出入りするのは珍しくもないからだ。
驚いたのはその少年の姿にだ。
正しく溝鼠という表現がしっくりくる。
雨に降られたのであろう。
上から下までずぶ濡れの少年に一瞬呆気に取られたがすぐに我に返り中に入るように促した。
少年が入ったのを確認してから奥へと行きタオルを持ってくる。
タオルを軽く放り投げると少年は難なくそれを受け取り顔を拭き始めた。
体が小刻みに震えている。
マグカップにホットミルクを注ぎ、カウンター席へと座るよう促した少年の前へとそれを置く。
「飲んでみろ。体の芯から温まる」
だが少年はそれを見るだけでいっこうに手を出そうとはしない。
そして一言。
「・・・・牛乳嫌いなんだけど」
と言った。
はじめて聞いたその声は子供特有の少し高めの声だった。
だが不快にさせるような高さでなく、この年頃の子供にしては静かな、それでいて意志の強そうな。
牛乳が嫌いなんてのは子供らしいけどな。
心の中でそっと笑い代わりにココアを置いた。
それにはすぐに手を出しゴクゴク飲み干した。
それから軽く話したがけして深入りはしなかった。
何処の誰かなんて聞くのはこの街ではルール違反だからだ。それは子供とて同じこと。
ただ一つ解ったのはその子供の名が『太一』だということ。
太一はたいそう聡明だった。
自分のことはいっさい話さないくせに、この街の現状は誰よりも理解していた。
治安が悪く荒れたこの街には幾つもの不良グループがチームを成してこの街を支配するべく抗争を繰り広げていた。
そんな街にいてもなお時々店にやって来る太一は怪我一つなく涼しい顔をして勢力争いの縮図などを話してくれた。それは愉しそうに。
だからこそ気づいた。
この子供にとってはこの街全体が遊び道具なのだと。
そして気づけば仲間だという数人を交えて閑古鳥が鳴くくらい静かだった店は少しばかり賑やかになっていた。
それから暫く太一が店に顔を出さない日が続いた。
代わりに現れたのはBLACKと名乗るチーム。
このチームもまた毎日のように他のチームと覇権争いという名の抗争をしていた。
そしてそれは突然やって来た。
チームのメンバーが巷で名を馳せている族潰しにヤられたらしい。
それに驚いたリーダーは、ここから動くな、と指示を飛ばし何人かを引き連れて店の外へと飛び出した。
しかし暫くすると耐えられなかった1人が他の人間が止めるのも聞かず店を飛び出していった。
店の中を不穏な空気が支配する。
静かな空間にカランカランと聞こえる鈴の音。
皆一様にぱっと顔を上げたが待ちわびていた人ではなかった。
ここ最近ですっかり見慣れてしまった複数の影。
しかしその影達は何も語らず静かに消えた。
まるで何かを暗示するかのように。
俺自身詳しいことは何も知らない。
ただその日以来また静かな店へと戻っていった。
そして今日、再び俺の前に現れた太一を見て、こんな顔をするようになったかと思った。
子供らしさが抜けて、どこか妖艶で儚げな笑みを浮かべて。
それを見て直感した。
新たな玩具を見つけたのだと。
それが何かは知らない。知りたいとも思わない。
ただ一つだけ願うのはあれに危険が及ばないようにということだ。
あれは自分の愉しみのためには多少の危険は厭わない。その先の快楽、快感しか見えていないからだ。
そういった危うさを持ち合わせている。
そこまで考えて、だがその心配はないか、と思い直す。
あいつの周りには常にあいつを守っている奴等がいる。そこまで親しく話したことはないがなんとなくそんな気がする。
年寄りのか・・・・・・・・・・・・・・・・
いや、うん、まぁ、ただの勘だ。
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