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狗
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狗は犬に非ず。
先刻から何度も出てきている狗とは長山の犬になれなかった者達。
なれど長山の為に何かしたいと思う気持ちは狗とて同じ。
それは長山も解っている。
解った上でその気持ちを利用しているのだ。
狗とはすなわち飼い主の手となり足となり動く駒。
ピコピコ バビューン ドゥドドドドド
どこか懐かしいレトロな音を響かせるそれに対して指は忙しなく動いている。
しかし懐かしさはあれど音を出しているそれは今日発売の最新機種だ。
その違和感たるや半端ない。
「昴その音うざい」
「あ~?なに?」
「だからその音うざいって。てか今時そんなゲーム売ってんの?その本体今日発売じゃなかったっけ?」
「本体は今日発売だけどソフトは俺らが生まれる前のやつ」
「は?それどうやってやってんの?」
「改造した」
「うわ~犯罪だよねそれ」
いいんだよ売るわけじゃなく自分でやるんだから、と喋りながらも指を動かす速度は変わらない。
元々平屋の空き家だったそこは今では立派な生活空間へと変貌を遂げていた。
「こんばんにゃ~。元気?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「あれスルー?朋くん寂しいな~」
空気を読まず場違いなテンションでやって来た自分のことを君づけで呼ぶ少年に2人は何も答えない。
「・・・・・てか裕人なにしてんの?」
「JSP」
「は?なに?」
「J(ジグ)S(ソー)P(パズル)」
いや、10代の少年がジグソーパズルをやっていてもなんら問題はない。それがたとえ変な略し方をしたとしても。
問題はその絵柄だ。
夢の国のキャラクター達がファンタジックなタッチで描かれているのだ。それを真剣な眼差しであーでもない、こーでもないと頭を悩ませている姿は実にミスマッチだ。
それは心の中で笑うとして自分も一緒にピースに頭悩ませることにした。
幸い裕人は最初から最後まで全部自分一人でしないと気がすまない質というわけでもなかったらしく、勝手に混ざっても文句を言われることはなかった。
部屋の中には相も変わらずレトロなゲーム音楽とぱちんとピースをはめる音しか聞こえない。
そんな感じで暫く無心でピースをぱちぱちはめていた朋は漸くここに来た目的を思い出した。
「そーいえばあの人この街に来てるっぽい」
それまで一心不乱にゲームとパズルをしていた2人は肩をぴくりと跳ねさせ動きを止めた。
「「・・・・・は?」」
なんでもないように呟かれた言葉に壁に凭れゲームをしていた昴は顔を上げ、パズルをしていた裕人も心底驚いた表情で真正面の顔を見た。
まるでおはようおやすみと言うように自然に発せられた言葉はしかし他の2人にとっては予想もしていない爆弾を落とされたようなものだった。
「いや~でも本当にびっくりだよね。あの人がこの街にいるなんて普通思わないもん。・・・・・・あ、完成」
ちょっとこれ本当にファンタジーだ何処に飾るのこれ~、完成したパズルを見ながら1人爆笑する朋に2人は頭の中を整理し言われたことを噛み砕きながら一生懸命理解しようとする。
「朋」
「うん~?」
「もう一回言って」
「だから~、こんなファンタジーなものどこに飾るのかな~?って」
「馬鹿違う!そこじゃない!」
「ぇ、ちょっ、てかあの人来てんの!」
「あ、そっち?」
「それ以外何があるんだよ!」
2人の盛大なつっこみを右から左へと聞き流しカシャとパズルの写真を撮る。
「俺が直接見たわけじゃないんだけどさ~、あの人達ぽい人達を見かけたって目撃情報がちらほらと」
「それってモノホン?」
「う~んどうだろ?でも最近調子のってたやんちゃグループが誰かにヤられたらしいから」
「え、マジで?・・・・・・・あーたしかにそれならありえるか。この街であいつらをどうにかしようなんて奴いないもんな」
「そっかあの人来てんのか・・・・」
「会いたいな」
「うん、会いたい」
誰からともなくぽつりぽつりと紡がれた言葉はいつの間にかなんの音もしなくなった空間に静かな音として溢れ落ちた。
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