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歓喜
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今はたして何時だろう。
夜の闇が深く濃いものになったような気がする。
バーから出てメインストリートと裏路地を行ったり来たりして、時々絡んでくる相手を適当にあしらって、それでも未だ狗は見つからない。
久しぶりにこの街に来たのだから顔だけでも見たいと思ったのだが。
「もうここにはいないのかな」
「・・・・・・あ、狗達発見」
諦めて今日はもう帰ろうかと声をかけようとした瞬間、朗報とも言える声が長山の耳に届いた。
「どこ?」
「えっと・・・・・」
矢崎はパソコンを上下左右と動かしながらぐるりと体を回す。
「・・・・・・あ、ここだね」
そう矢崎が指差したのはちょうど長山達の後ろにあったトタン屋根の古びた家だった。
目と鼻の先。
探し人は案外近くにいたらしい。
「・・・・・・おいふざけんなすっげー近くにいるじゃねぇか!あんなに歩いたのはなんだったんだよ!何の為の情報担当だよ!」
「はぁ?うるさいなー、キャンキャン吠えるしか能がない駄犬は黙っててくれない?だいたいあっちが変なトラップとか仕掛けてるのが悪いんだし、それ一つ一つ解いてて遅くなっただけだから」
ワンワンキャンキャン五月蝿いのは放置して長山はすたすたとドアへと手をかけた。
キィーギギギギ
立て付けの悪い音をたてながらドアがゆっくり開けられる。
その先は外の古ぼけた感じからは想像もできないほど内装なども綺麗に整えられていて新築の木の香りまでした。
中を見渡すと3人の少年。しかし皆が皆上を見上げぼぅと物思いに耽っている。
長山達が入ってきたことにも気づいていないらしい。
少し離れた所からその顔を確認する。
2年ほど見ていないし成長もしているが間違いない。探していた狗だ。
長山はゆったりとした足取りで3人に近づき優しい声色でその名前を呼んだ。
「昴、裕人、朋」
自分の名前にぴくりと反応を示し恐る恐る首だけで振り返る。
「え、」
「は、ぁ?」
「マジ?」
「久し振りだね」
やっと狗に会えた悦びを以て最上級の笑みを浮かべているにも関わらず突然のことに驚き固まって、いっこうに此方へやって来る気配はない。
普通は狗の方から来るもんじゃないのか。
そう思いながらも突然消えたのはこっちだしこの反応も仕方ないか、変な小細工を仕掛け矢崎の情報網から逃れようとしたことについては目を瞑る。たとえ歩き疲れて足が痛くなったとしても。
反抗期だと軽く受け流そう。
長山はこれまたゆったりとした足取りで徐々に狗達との距離を縮めていく。
その間も、嘘だどうして本物?などとぶつぶつ呟いている。
そして後数センチというところで歩みを止めた。
それに怖ず怖ずと顔を上げ何かを確認するようにじっと長山を見つめる。
「・・・・・・ぅ、ぁ~・・・」
「こ、れはあれだ。アレ」
「・・・まじもん、だよね?」
長山もまた狗達を眺めその瞳を細める。
「俺のこと忘れた?」
「「「・・・・・・・・」」」
間近で吐かれた言葉に3人そろって絶句。
しかし次の瞬間には、
「太一さんだぁーー!!!」
「なんで?どうして?!」
「マジで本物キタァァァ!!」
そう言うなり同時に飛びかかってきた。
それを長山は後ろに跳んで避ける。
そのまま顔面から床にダイブした3人は顔を擦りながら涙目で恨めしげに睨んでくる。
「ぅ、ぇ・・・なんで避けるんすか~」
「・・・・鼻痛い」
「うへぇ、もろ打った」
「五月蝿い。躾のなってない狗を飼った覚えはない」
一喝すると瞬時に黙る。
それは正に躾の賜物だ。
それまで少し離れた所からことの成り行きを見ていた柏木は長く息を吐き出し長山の名を呼んだ。
「太一、用が済んだなら行くぞ」
それは柏木にしては早口でどこか急いでいるようにも見える。
その声にピクリと肩を僅かに震わせたのは裕人。
勢いよく振り返り柏木の姿を確認するととたんに笑顔になった。
「アニキ~!!」
それこそ犬のように走り寄り飛びかかる。
あまりの勢いに思わず後ろに仰け反り尻餅をついた。
「いっ・・・・・!!」
「アニキだアニキだアニキだぁ~」
痛みに呻き腰を押さえる柏木に構わず犬が飼い主に愛情を誇示し舐めるのと同じようにすりすりと首元に顔を擦り寄せる。
その様子を長山はひどく愉しげに眺めていた。
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