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狗、キモチ
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『俺も会いたかった』
そんなたった一言でほわんほわんと今なら空も飛べるぜ!と有頂天になっている3人だったが、昴はふと疑問を口にした。
「どうして突然俺達の前から姿を消したんですか?」
それは他の2人も思っていたことらしく茶々を入れることなく静かに長山の答えを待つ。
長山は一瞬考える素振りを見せた後、天井を仰ぎ静かに口を開いた。
「んー・・・秘密」
「へ?」
長山のまさかの答えに間の抜けた声が出る。
「・・・え、なんで?教えてくれてもいいじゃん!!」
「なんでも聞いたら答えが返ってくるなんて思わない。時には自分で考えることも大事なんだよ」
目の前で明らかに納得できないと不貞腐れている3人に心の中で笑い、少し意地悪し過ぎたか、と軽く反省した後今度は狗達が喜ぶであろう言葉をヒントの意味合いを込めて発する。
「今俺達がいる所は色んなことが起こって愉しいよ。今は特にな。毎日が飽きない」
表情を緩め実に愉しげな声色で話すその珍しい姿を狗達は地べたに座り興味深げに見上げる。
こんな愉しそうなこの人を見たのはいつぶりだろう
こんな、心からの笑顔を
そしてその笑顔を近くで見たい、それを共有したいと思った。
だからこそ自分の意思を示そうと開いた口は、その思いを口にする前にバッサリと切り捨てられた。
「でもお前達は俺を追いかけて来るなよ」
ヒントはやるがその意思は打ち砕く。
それは飼い主からのはっきりとした拒絶。
「はへっ!」
「は、あ?!」
「ホワイッ!!」
三者三様の驚き方で非難めいた抗議の声が上がる。
「なんでなんでなんで!!意味分かんない!!」
「変なトラップ仕掛けたの怒ってるんですか!!あれはただの遊びの一環で、だってまさか太一さんが来るなんて思わなかったから!」
「ここまで来てそれはないよ~!」
まさに爆音。どこかの宇宙人みたいだ。
もっともアレは1人ですでに爆音だが。
そんな様子に長山は苦笑すると、また色々と省きすぎた、と1人反省した。
「ああ、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけど」
長山は自分以外にも伝わるように慎重に言葉を選びながらそれを音にした。
「お前達にはお前達の道がある。それを潰してまで俺に付き合う必要はない」
そう言った長山の瞳は柏木達を捉えた。
3人もそれに倣うよう視線を向ける。
「お前達は俺だけを見るな」
強く言い放たれた言葉に長山へと視線を戻す。
その時にはすでに長山の瞳は自分達の元へと戻っていた。
3人の中でも一番聡い裕人はその一瞬で全てを理解した。
犬と狗の違いを。
自分達を強い言葉で突き放したように、柏木達にも同じことを言ったのだろう。
もちろん長山に固執している柏木達が首を縦に振るはずがない。
今も変わらず一緒にいるということは、つまりそういうことだ。
自分達が同じようにNOと言ったところで飼い主を追いかけることは許されない。
飼い主が心を許した者だけが本当の犬になれるのだ。
それに気付いた裕人は項垂れるように肩を落とした。
横を見れば昴と朋も同じような体勢になっていたから2人も気付いたようだ。
自分達はいつまでも狗のままであると。
そんな沈んだ空気のなか、
「でも長期休暇の時は会いに来るから、良い子で待ってろよ」
甘いアメが与えられた。
だからこの人の傍からは離れられない。
厳しい躾の後には必ず甘いご褒美が待っている。
だから
当分は狗のままでもいいかな
と思う。
それに『俺達の道』ということは、自分でその道を選べば何をしてもいいということだ。
たとえば今いる所を調べてそこへ行ってもよい。
だってそれが『俺達の道』なんだから。
ねぇ、そうでしょ?
俺達の飼い主様・・・・・
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