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結局、阿南の宿題の目処がついたのは日がどっぷりと暮れた頃だった。
窓からは帰宅を急ぐサラリーマンが見える。
「柚季、後は自分でできるよね」
「え~!!最後まで手伝ってくれないの~」
「そこまでするとは誰も言ってないよ」
「むぅー」
明らかに納得できないと膨れ面になる阿南に苦笑しその頭を数回ポンポンと軽く叩く。
「大丈夫だよ。柚季ならちゃんとできるから」
叩いた後は優しい手つきでそっと撫でる。
その心地好さに阿南は表情を緩めた。
「じゃあ、残りを自分で頑張ったらご褒美くれる?」
バッとテーブルから顔を上げた阿南は笑顔だった。
キラキラと何かを期待した瞳で長山を見つめる。
その瞳を見て次いで緩く微笑んだ。
「そうだね。ちゃんと一人でできたらご褒美あげる。この間の分も含めてね」
「この間?」
「書記親衛隊の・・・・・」
「アヤちゃん?」
「そうそれ、上手く落としてくれたでしょ?そのご褒美もまだあげてなかったから。宿題ちゃんとできたら2つ纏めてご褒美あげるよ」
その言葉に阿南の瞳が輝きを増す。
「ほんと?それ本当に本当だよね!?」
「うん」
パァと明るい顔に突如暗い影が落ちた。
「でもそれってつまりあっちゃんにもご褒美あげるってことだよね」
「そうだね。碧も頑張ってくれたからね」
「・・・・・・なんか面白くない」
吸うものがなくなったストローからは空気の音だけがする。
「だったらあっちゃんにはあげない物を僕にちょーだい。太ちゃんの特別が欲しい」
あまりに真剣な表情と瞳の阿南に言葉が出てこなかった。
それと同時に自分は本当に自分を想ってくれている人達に囲まれ、恵まれていることを再認識した。
幸せであると。
だからたまにはとびきり甘やかしてあげたくなる。
もちろん長山の機嫌が良いとき限定だが。
駅前のそこは立地条件も相まって帰宅時間ともなれば小腹を空かせた高校生や1日中外を歩き回った営業マン達で店内がごった返す。
そんななか、昼前から日が沈むまでドリンクバーだけで居座った長山達は大変迷惑な客だっだろう。
遠巻きにではあるが迷惑そうな顔で店員が2人を見ていた。しかしそんなこと気にするようなか細い神経など残念ながら持ち合わせていなかった。
妙にニコニコしている阿南とは駅のホームで別れる。
「太ちゃん約束忘れちゃヤダよ?」
「心配しなくても大丈夫だよ」
エヘヘ、と笑いながら電車に乗り込んだ阿南を見送ってから長山も目的の電車に乗った。
車内は帰宅ラッシュを過ぎたからか人は疎らで、空いている席に悠々と座ることができた。
その時ずっと胸ポケットに入れたままだった携帯端末がメールを知らせた。
『今電話しても大丈夫ですか?』
タイミングの良さに驚きつつ、らしいと笑った。
すぐに返したメールには『いいよ』の一言。
再び来たメールはやはり『ありがとうございます。』の一言だった。
ヴヴヴヴ.......
「もしもし」
『・・・・・太一さま』
普段は仲が悪いくせにこういう時だけはシンクロする。そのことが可笑しくて相手に分からないようそっと息だけで笑い、その名を呼んだ。
「碧、久しぶりだね」
『はい』
訪れる沈黙。
聞こえるのは電波の向こうの微かな空気音だけ。
ただその時間を苦痛とは感じなかった。
電話の許可をとり、メールにも律儀に返信を返す。
そのしおらしさは好感を持てる。
これが阿南であれば遠慮することなく真っ先に電話をかけてくるだろう。
「どうしたの?」
『えっと・・・・・・』
「うん?」
『・・・・太一さまの声が聞きたくて』
これまたしおらしく、らしい声音に今度は向こう側に聞こえるようにはっきり声に出して笑った。
「碧」
『はい』
「俺に会えなくて寂しかった?」
『・・・・・・・はい』
櫻川の答えに満足げに笑みを深める。
「今度会う時を楽しみにしておいで」
『・・・・・?』
言われた意味を櫻川が理解する前に電話を切る。
そのまま手に持ったスマートフォンで口を隠し、目を細める。
とびきり甘いご褒美をあげるから。
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