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poor suspense
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遠山葉瑠夏が隔離室から忽然と姿を消したというニュースは瞬く間に生徒達の間に拡がった。
しかし生徒達が重視したのは"消えた"ことではない。
"何故消えたのか"ではなく"どうやって消えたのか"
あの部屋には鍵が掛かっていたはずだ。
しかもその鍵はきちんとした所に保管されており一般生徒に持ち出すことは不可能。
それではいったい誰が、どうやって・・・・結局結論にたどり着くことはなく最初に戻る。
何処に行ってもその話が聞こえてくるし、教師連中は前代未聞のこの事態に頭を抱えている。
それは風紀も例外ではなく、むしろ今回のことは風紀に責任があると鳴海は頭を痛くしていた。
「すいません委員長」
「いや今回のことは俺にも責任がある」
頭を下げ謝る委員を鳴海は制する。
風紀委員は生徒会と違って授業免除がない。
そのため放課後しか見張りを置くことができなかったのだ。
だが部屋の鍵については休み時間の度に鳴海がきちんと掛かっているか確認していた。
それが今回の誤算。
完全に油断していたのだ。
大丈夫だろうと。
安心と油断は風紀委員会最大の失態を生んだ。
鳴海は益々痛くなるこめかみを押さえ天井を仰ぎ見た。
学校中が妙な空気に包まれるなか長山は独り第二図書室にいた。
好きな本に囲まれ、木漏れ日が射し込み、時々鳥の鳴き声が聴こえる静かな空間。
少しだけ開けられた窓からは残暑特有のむしむしするような空気が入ってくるが不思議と不快ではない。それはここが人工物から離れ木々に囲まれた森の中にあるからだろう。
隙間から入ってくる風がサラサラと長山の髪を擽り、パラパラと長山の持つ本を捲る。
静かな空間で好きな本に囲まれ緩やかに過ぎる時を楽しむ。
誰にも邪魔されない長山だけの至福の時間。
今はその時間を邪魔する者は誰もいない。
さすがの遠山だってこの状態で出てくるほど馬鹿ではないだろう。
一緒にいるはずの人間がよく言い聞かせているだろうし。
そう長山には遠山を連れ出した人物について大方の予想ができていた。
そしてその人物が何を望んでいるのかも。
だから奴等は光に集まるただの虫だと言うんだ
光だと言う人間がいる所為でただの蛾がつけあがる
自分を光だと思い込む
だからこそ奴等は
此方から仕掛けなくても向こうから勝手に出てきてくれる
後はそれを見て笑うだけさ
パタンと大袈裟な音を立て閉じられた本を机に置くとまだまだ高い白く輝く太陽を見上げ少しの間惰眠を貪ることにした。
眼鏡は壊れないよう机に置いた。
目を閉じると自然と落ちていく意識。
サラサラと風に靡く漆黒の髪、白く透き通るような肌、薄く開かれた唇からは時折紅い舌が見える。
椅子に座り俯いて眠る様はまさに天から舞い降りた天使のよう。
まるで1枚の絵画のようであった。
だがそれを見ることができる者は今この場にはただの1人もいなかった。
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