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憐れで可哀想な子供
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例えるなら小鳥の囀り。
あまりにも綺麗すぎるその声は耳を、心を、身体の機能を麻痺させる。
「愉しい?」
再び繰り返される言葉。
何が、とは言えなかった、真っ正面にあるその瞳に捕らえられ言葉を紡ぐことができなかったから。
言葉を発することのない人形のように固まってしまった遠山の瞳をじっと見つめ唇は綺麗な笑みを携える。
「愉しいんだよね、皆が自分のことを見てくれるから。嬉しくて愉しくて、今が人生の絶頂期かな」
「・・・・な、に?」
言われた言葉が理解出来ず忙しなく動く眼球。
その体は本人も気づかぬうちに後ろへ後ずさる。
それにうっすら笑みを浮かべると、壇上の鳴海へと視線を向けた。
「俺、飽きちゃったから。あとは好きにしていいよ」
鳴海が息を飲む音がマイクを通して体育館中に反響した。
それに満足したのか長山はそのまま背を向け出口へと歩いていく。その後を当然のように着いていく柏木達。
「待てっ!」
慌てて声をかける鳴海にも振り返ることなくドアは無情にも閉じられた。
残された者達はただ彼らが消えたドアを見つめるだけ。
「・・・・っ!おい待てよ!」
しかし遠山だけはその黒い影を必死に追いかけた。
遠山が消えた室内はとたんに静けさを取り戻した。
だが全てが終わったわけではない。
鳴海は遠山の行く先を按じながら、視線を外へと通じる出口からただ一点を見つめる柳へと移した。
「・・・・・柳、お前は遠山が理事長に頼めば再び生徒会になることが可能だと言ったな?果たして本当にそうか?今までの遠山の行いを思い出してみろ。お前達と一緒になって授業はおろか試験を放棄。それでも親類であるはずの理事長は何も言わない。それは甘やかされているのではない。呆れられ、見放されたのだ。理事長にどう頼んだところでお前が生徒会に戻ることはない」
柳は脱力したようにその場に崩れ落ちた。
それを嘲笑うかのように鳴海は言葉を続ける。
「これまで通り、真面目に執務を熟せば歴代最高の生徒会となれたものを」
外界はひどく静かだった。
木々が生い茂るそこは空気が清んでいる。
全校生徒が集まり、密閉されていた空間にいたから余計にそう感じるんだろう。
鳥の声を傍らに聴きながら歩は止めない。
穏やかな空気が流れるなか、それを切り裂くように響いた声。
「待ってって言ってんだろ!」
バサバサと木の枝に止まっていた鳥達がいっせいに飛び立つ。
それに不快な顔をした後、その原因に目を向ける。
「俺が呼んでるのに無視するなんてサイテーだぞ!」
走ってきたのかハァハァと肩で息をしながら上げた顔は、額にうっすらと汗を滲ませ、頬は桃色に染め上げ、それが金色の髪によく映える。
確かに綺麗な顔はしている。
見る人が見れば天使なのだろう。
現に生徒会もこの容姿に落ちたのだから。
だが如何せん中身が伴わない。
良く言えば天真爛漫、悪く言えば自由奔放。
自分の世界が全てだと思い、自分が全て正しいと信じている。全てにおいて正しい自分は全ての人間に愛される。自分のことを嫌う人間などいるはずがない。
そんなことあるはずがないのに。
本当に愚かだな
「話聞いてんのかよ!無視するなんてサイテーだ!」
「酷い、サイテー、お前の口はそれしか言わないね。まるで子供だ。自分は何しても許されるって本気で思ってる?」
「は?そんなの当たり前だろ!俺は正しいことしか言わないんだからな!」
「ふ~ん」
ニッコリ笑いながらも吐き出される言葉は辛辣。
対して振りかざされるのは身勝手な正義論。
「可哀想だね」
それを憐れみの籠った眼差しと言葉で一掃した。
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