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憐れな蝶
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「・・・・・・可哀想?」
「うん、すっごく可哀想」
初めは何を言われたのか解らなかったが、その意味を理解すると徐々に表情を険しくしていった。
「なんで俺が可哀想なんだよ!」
怒りで顔を真っ赤にした遠山に近づく。
そして少しだけ腰を屈めながら下から覗きこむように瞳を合わせる。
「そういうところ」
「え?」
「自分が可哀想って思ってないところがすっごく可哀想」
ああ、本当に
「憐れだな」
いつだって自分が正しい。
それは夜の世界でだって同じ。
族同士の抗争をいけないことだと決めつけて喧嘩両成敗の如くどちらのチームもボコボコにした。
自分以外は悪だと決めつけて。
自分が一番強い。
その他にも遠山の噂は隅々まで広まった。
悪行として。
例えばカツアゲしている奴を"なにしてるだ!"と止める。そこまでは一昔前のドラマによくある筋書きだ。まだいい。
問題はその後。
驚き逃げようとしたそれをボコボコに殴りつけるのだ。"もうしない"と涙を流しながら謝っても無視して殴り続ける。
それはもはや正義感でもなんでもない。
ただの自己顕示欲。
やり過ぎて警察沙汰になろうとも可愛い息子の為にと馬鹿親が揉み消してしまう。
そうしてまた付け上がる。
自分は何をしても許されるのだと、自分のしていることは正しいのだと。
だからこそ大きく名の知れたチームを次々と潰して回ったのだろう。
こんなの間違っていると。
皆仲良くしなきゃダメなんだぞと。
それが新たな火種になるとも知らずに。
そうしていると不思議なもので、噂はいつしか一人歩きをして根も葉も付いてくる。
人を介して伝わった噂はやがて美化されるのだ。
蝶のように舞い、恐ろしく綺麗な族潰し
―― 毒蝶 ――と。
ああ、本当に
愚かだ
「・・・・・・っ!なんなんだよ!さっきからどうしてそんな意地悪ばっかり言うんだ!」
「毒蝶として皆から注目されることが嬉しかっただろ?」
「え、は・・・なんでっ!」
「遠山葉瑠夏として見目麗しい学校の人気者達に構ってもらえて嬉しかっただろ?」
「・・・・・・・・っ!」
「自分は他とは違うんだ、特別なんだって優越感に浸れただろ?」
「違う違う!出鱈目なこと言うな!」
そう言って突き出される拳。
それは長山の顔目掛けて真っ直ぐ飛んでくる。
だがそれが届くことはなかった。
「いい加減うぜぇーんだよ、糞チビが」
長山は自分の前に立ち、遠山に拳を叩きつけたその後ろ姿を眺めうっすらと微笑んだ。
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