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けものみち
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『もう一つ』
『特別な』
『情報』
『くれてやる』
あれは誰の言葉だっただろうか。
酷く昔のことのようにも思えるし、ごく最近のことのようにも思う。
『A.Tには気を付けろ』
そうだアレは俺がまだBLACKにいた頃。
タツの言葉だ。
「・・・・・・・・少数精鋭でチームのリーダーは冷酷非道な悪魔」
「・・・・・・なにそれ」
「俺が聞いたA.Tだ」
「最悪っ!」
顔をしかめ、唇を歪めながら吐き捨てる。
「なにそれ、誰に聞いたの?」
「元BLACKのメンバーに、巷では有名な話だと言っていた」
「サイテー、てか頭悪すぎ」
口汚く悪態を吐く目の前の人物は鳴海の知る阿南柚季とは別人だった。
緩い口調と緩い表情。
隊員達が制裁をして、その現場を押さえ、隊長である阿南を呼び出し注意を促した時でさえ、「ごめんなさ~い。今度からはしないようにきつ~く言い聞かせま~す」と顔に笑みを浮かべながら言っていたのに。
「だいたいさ~・・・」
「柚季それぐらいで止めな」
「太ちゃん」
「柚季に喋らせるとどんどん脇道に逸れるからね」
長山は阿南を咎めると足を組んで鳴海に向き直った。
「・・・・で?質問は俺が何者か、だったか?」
ゾクリ
鳴海の背中をゾクゾクしたものが這い上がる。
その漆黒の瞳が鋭く射貫き、空気感染でも起こしたかのように部屋の気温が1・2℃下がったような気がした。
それは鳴海以外も同じだったようで先程まで緩く辛辣な言葉を吐いていた阿南も、傍観者に徹していた柏木達も、ピシリと硬直し顔を引きつらせている。
妙な緊張感が流れるなか、この空気を支配しているのは間違いなく長山だ。
「A.Tってなんの略か知っているか?」
「・・・・な、に?」
「A.Tとはそもそも正式名称ではない。周りが勝手に言い出したモノだ」
「・・・・・ではA.Tとは、いったい」
口角を吊り上げ、その声帯が綺麗な発音を持って音を紡ぎだす。
「"Animal Trail"」
「・・・・・・アニマル トゥレイル?」
鳴海の為に弁解しておくが、鳴海はけして英語が苦手というわけではない。
ただ長山のあまりに綺麗な発音に呆気にとられ拙い発音でしか返せなかったのだ。
だからその意味も知っている。
「獣道」
満足げににんまりと笑う。
「人生なんてものは山あり谷あり。何が起こるか分からない。それこそ安全に舗装された道ばかりじゃない。時には草が生い茂った道だって。長い枝が行く手を阻み、大きな岩の前で立ち往生するかもしれない・・・・・それを人は獣道と呼ぶ」
優雅に足を組み換えながら酷く愉しげに言葉を紡ぐ。
「その獣道をどう攻略するかは犬にかかっている。だがあいにく俺は犬の躾は得意でな」
「・・・・・っ!まさかお前が・・・・・っ!」
小首を傾げニッコリ笑う。
さぁ、答え合わせを始めようか
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