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「翔、遅れますよ」
「待って、今行く」
今日、俺は高校を卒業する
庭の桜は満開で花びらがひらひら舞っていた
「忙しいからいいのに」
「今日は大切な日でしょ?仕事より翔の卒業式が大切です」
「ありがとう、嬉しいよ」
スーツ姿の和海に少しドキドキしながら、玄関を出た
父兄の中でも和海はとても目立っていた
仕方ないけどね
卒業式も無事終わり、友達と別れの挨拶をして歩き出した
何となく寂しいような、嬉しいような気持ちだ
校庭も桜も満開
その桜の木の下で一緒に写真を撮った
「和海、花びらが」
「翔もですよ」
お互い笑いながら花びらをそっと指で払い、俺は和海にお礼を言った
「和海、本当にありがとう」
「おめでとうございます、これからは私の秘書としてよろしくお願いします・・・ですね」
「うん、頑張るよ」
俺は、自力で和海の会社の入社試験をクリアして4月からは同じ会社で働く事が決まっていた
なのに和海は心配だからと言って俺を秘書にしてしまった
何と言うか・・・大丈夫かな俺
「俺だけ甘やかさないでね?」
「無理ですね」
「えっ?」
「厳しくなんて出来ません」
「ちょっと~」
「当たり前です」
「もう・・・」
「本当は仕事などさせたくないのに・・・」
「同じ会社なら和海といられる時間が増えると思って頑張ったのに」
「そうでしたね・・・」
大学へ行く選択は無かった
高卒では厳しい入社試験をクリアする為に頑張ったんだ
なのに和海は不服そう・・・・・仕方ないけどね
「そうだ、桜を見に行こうよ」
「あの桜ですか?」
「うんうん」
「そうですね、行きましょう」
あの桜には何故か縁があるような気がして
和海と出会ったのもあの桜の木の下だった
二人で手を繋ぎ、桜の木を目指した
「すごく・・・綺麗」
「見事な桜ですね」
あの桜の木は満開で、風に吹かれて宙を舞う花びらが幻想的だった
「ねぇ、和海」
「はい」
「この桜の木はいろいろなものを見て来たんだろうね」
「そうですね・・・昔の人もこの桜を見ていたのでしょうね」
「うん、例えば戦国時代なら・・・この桜を見つめながら見る事の無い未来を想像していたのかな」
「戦国の世なら、生まれて来た事を後悔しながら涙を流していたのかも知れませんね」
「そうだね、愛する人と結ばれることも無く死んで行った人もたくさんいたのかも知れないね」
「この桜はこれからもずっといろいろな人を見て行くのでしょうね・・・私達の知らない未来も」
「うん」
桜の木を見つめながら、そっと和海に寄り添い微笑んだ
「・・・・・・・・・・・・・・」
「和海?」
一瞬、和海の指が動いた
どうしたのかな
「翔」
「うん」
「今度は私が貴方を護ります」
「えっ?」
そういい終えた和海は俺を突き飛ばした
「いっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
えっ?
嘘だろ
俺を突き飛ばした和海の目の前には婚約者だった女が立っていた
俺を殺すはずだったの?
和海を突き刺した包丁から滴り落ちる血
その血が地面を赤く染める
その時、何かを思い出したような気がした
「和海様が悪いのよ・・・私を無視するから・・・そいつが悪いのよ、私のせいじゃない、私のせいじゃないんだから!」
「和海!」
「・・・・・・・逃げて・・・・・はや・・・く」
「嫌だよっ!何で俺を庇ったんだよっ!何で・・・」
「ついでにお前も殺してやる!」
「翔、逃げなさい!」
「嫌だ!・・・・・ぐっ」
「あはは・・・・あは・・・・・二人とも死ねばいい・・・あは・・・きゃーーー!」
桜の花びらが舞い、視界を遮られた彼女は足を滑らせて転がり落ちて行った
背中に激痛が走る
和海は俺を抱きしめたまま倒れ込んだ
そして不思議な幻覚を見た
その幻覚はとても鮮明で、悲しかった
「和海・・・俺、思い出したよ・・・・・やっとまた出会えたのに・・・・」
「私にも見えました・・・あの時確かに私達は愛し合いながら殺された」
「うん・・・・・ずっと昔から・・・・・やっと愛しあえる時代に生まれ変わったのにね・・・でもこの先もこの愛は変わらない」
「私もです」
また俺達はここで死ぬのかな
戦の無い時代に生まれても結果は変わらないんだ
あの時夢に描いていた未来は、結局同じだった
永遠に結ばれないままなのかな
「和海・・・」
「また護れませんでした・・・・」
「いいんだよ・・・和海を置いて逃げられるわけないだろ?」
「・・・・・・・・次はいつ・・・会えるのでしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「翔?」
「ごめん・・・何だか眠くて・・・」
「いけません、翔!」
「必ず・・・会えるさ・・・今度こそ・・・しあわ・・・せ」
「・・・・・・・そうですね・・・今度こそ・・・・」
最期に見たのは桜の木
綺麗な花びら
そして和海の横顔
また必ず会えるよね
そしてまた愛し合えるよね
きっと和海を見つけるから
今度こそ幸せになろうね
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