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ヌクモリティその8。
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「おー、ミー子久しぶりだな、太郎も」
俺の事を覚えてくれていたのか尻尾を振って太郎♀が近寄ってきてくれた。太郎は豆柴だ。このふさふさかんたまらん。
後ろから視線を感じる。もちろん高畑だ。
「帰れって言うなよ」
何か言われる前に釘を刺しておく。太郎をそっと降ろして高畑に向き直った。
「もう、傷はいいのか?」
「おう、元気元気」
まぁ本当なら家で大人しくしてないとなんだが、変わらないよな。
高畑はほっと息をついた。俺の言葉に安心したんだろう。
しかしその後眉根をギュッと寄せた。喜んでいる時とは違う苦しそうな表情だ。
「佐藤は、どうして俺に近づくんだ」
分からない、と言ったふうに高畑は言う。
本当に馬鹿だと思う。そういうのって、そういうことって
「理由とか必要か?」
高畑は不機嫌そうに俺を見る。俺だって不機嫌だバカヤロー。
「怪我させられて、まだ近づこうと思わないだろう普通は」
「だってお前のせいじゃないじゃん」
「俺のせいだ」
高畑はそう言い切った。
それにむ、とする。
「あれのどこがお前のせいなんだよ、状況思い出せよ」
「俺が喧嘩なんてしてなけりゃ」
「俺が勝手に飛び込んだだろ!!!!」
ああもう、埒があかない。
来ていたパーカーを脱ぎ捨てた。
「これ!! この傷」
そう言って後ろを向いて刺されたところを見せる。
「お前が俺を引っ張ってくれなきゃ臓器まで達してたんだぞ
お前がああしてくれなきゃ、俺今ここにいないんだよ、まだベッドの上だ」
向き直って歩み寄る。高畑が後ずさったけど追い詰める。追い詰めてその肩を掴む。
目を合わせる。目つきが悪いと言われるその目は不安そうに揺らいでいる。
「お前は俺の命の恩人だ」
ふる、と高畑が首を振る。何が違うんだ。伝わらないのか?
「また、同じことが起こったらどうするんだ」
「高畑がまた助けてくれるって信じてるよ」
薄く笑う。本心からの言葉だった。口から滑り出た。
俺はお前を信用するから、お前も俺から離れようとしないで欲しい。
その気持ちが伝わればいいとその目を見据えた。
「俺はさ、お前のいいところいっぱい知っちゃったから、お前と離れるの惜しいと思っちまうんだよ。
お前はメシもうまいし気も利くし、優しい。たまに勘違いもするけどな。近づくなだなんて悲しいこと言わないでくれ」
高畑は唇をぎゅ、と噛み締めて眉間に皺を作った。
その表情はいつものものだった。ほっと胸が暖かくなる。
「そんな風に言うのお前だけだぞ、馬鹿野郎」
噛み締めるようにそう言った。肩に乗せていた手をそっと外す。
「もう近づくななんて言わないよな?」
「どうなっても知らねぇぞ」
ふい、と顔を背けた高畑はいつもにように眉間に皺を作っていた。
嬉しいと思ってくれるんだなぁ、そういうところそこいらの女子より可愛いと思う。
ん? 女子より? 俺の高畑への『可愛い』って女子へ向けるものと同じなのか?
「いやいや、前言撤回」
「そうか」
沈んだ声が聞こえる。
「え、ちがお前のことじゃな、くはないけど、お前と話したさっきのことじゃないから!!」
この後高畑の誤解を解くのは骨が折れた。
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