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竜胆
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微かに嬌声が聞こえる。
多分、紫苑と絹雲だろう。
あの2人が愛し合って居る事は、皆知って居る。
けれど、駈け落ちする程の度胸や悪知恵を持たない事も知って居るから、見て見ぬ振りをするのだ。
丁度読んでいた小説が道ならぬ恋の話だったから、何となくあの子達に重ねてしまって切なくなった。
「竜胆、居るか?」
「どうぞ」
望が入って来る。
「どうしたの?」
「いや、別に」
なんて言いながらごろんと寝転ぶ。
飲み物とお菓子を持参していて、長居する気なのが伺えた。
「本読みたいんだけど」
「俺の事は気にしないで読んでろよ」
望と俺は同い年で、そのせいかこいつは俺に懐いている。
普段はそんな事おくびにも出さないくせに、いつも何か察したように俺の元にやって来るなんてまるで猫みたいだ。
「ちょっと、重いよ」
突然俺の膝を枕代わりにする望の額をぺしっと叩いてやる。
「てめぇ、俺様の顔に傷が付いたらどうしてくれんだよ」
「いいじゃん、もう商売道具じゃないんだし」
「接客もしてんだから商売道具だボケ」
望は綺麗な顔をしている。
太夫だった時は、本当に人気があった。
しかし本人は自分はタチだと言い張って、挿れられるのは苦痛だったと言っている。
それでもあれだけ立派に仕事をこなして居たんだから、正に太夫になるべくしてなった男だ。
「お前はまだやれるよ」
「何、急に」
「稼ぎ頭に辞められたら困るっつってんだよ」
「……それは、太夫の2人でしょ?」
「あいつらはまだまだだ。お前の背中もっと見せてやってくれ」
「また勝手な事を……」
「今が潮時なんて言わせねえからな」
「……せいぜいこき使えばようござんすよ、この老いぼれを」
「ばーか」
ああ、どうしてこの男は。
気づいても居ない振りをして、こんなに俺の事を見透かすのだろう。
そう言えば、俺の道ならぬ恋を言い当てられてしまった事もあったっけ。
「あいつらといいお前といい、不毛な事してんな」
「良いんだよ、それでも幸せなんだから」
たった一度だけ抱かれたお客に恋してしまったなんて。
その人が、可愛い弟一筋になるなんて。
そして、その弟は別の人を見ているなんて。
なんて滑稽なんだろう。
でも、誰が悪いわけでも無いから余計質が悪いんだよね。
望の長い指が頬に触れる。
「馬鹿野郎、俺にまで良い子ぶってんじゃねえよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てた言葉とは裏腹に、その手は優しかった。
生ぬるい水がぽとりと落ちる。
「絹雲が、羨ましい。あんなに愛されて」
自分の望む愛も、俺の望む愛も手にしているあの子が。
だけど。
「あの子に嫉妬してる自分が大嫌いだ」
「そんなもん、して当たり前だ。人間なんだから」
「でも、」
「それを絹雲に悟らせないようにしてるんだから上出来だろ」
口が悪いくせに、いつだって俺の欲しい言葉をくれるんだ、こいつは。
「ほれ、芳郎。もうそのへんにしとけ。明日仕事出来なくなるぞ」
「……ん」
「気が済んだか?」
「うん……」
「蒸しタオル持ってきてやるから待ってろ」
な、よしろーちゃん。
なんて、俺の頭を撫でて部屋を出て行く。
こいつにだけは、いつまでも敵わないんだろうな。
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