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優しい仕掛け
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龍希はそんな日々に戸惑いはしたが、
当たり前のように恋人として接してくる貴仁により、
ゆっくりとではあったが、
これが現実であり、夢なんかでは無いのだと実感出来るようになってきていた。
この人が自分を愛してくれているのだと言う事を
事実と認めるのは、長い事見放してさえいた自分自身という対象を自ら愛する事へと繋がっていた。
それは幸福であった。
愛されている、愛してもかまわないのだと言う実感、自分が得ていても良いのだろうか?と思うほどに
幸福であった。
そしてそれは龍希に自信を齎した
仕事の合間、合間に、携帯電話を確認する事が癖になった。
帰宅をして、貴仁の住む家が見えると、あれが自分が帰る家なのだと思い口元が決まって緩んだ。
玄関を開けて「ただいま」と言える喜び
そして何より、それに「おかえり」と返ってくる幸福は、口元の緩みなど通り越し、
涙が滲みそうになるのだった。
幸せで幸せで毎日が驚くほど楽しく感じた。
ミュージカル映画で突然歌い踊り出すような、
何だかあれも今ならば最高に理解できる!などと思ってはふふふと笑った。
そして、
同時に、この幸福はいつかは消えて無くなるのだろうな、
と言うどうしようもない不毛な考えが頭をついて離れない。
それは彼の性格なのだとは思うが、それらを払拭するのは容易ではなかった。
幸福が強ければ強いだけ、不安も重くのしかかる
しかし、それらは貴仁の不安にもなるのだと龍希は気付けていただろうか?
貴仁は、あれから日をおう毎に龍希を前よりさらに愛する、その気持ちのスピードに恐さすら感じつつも、
それを忘れるほどに、嬉しくて、幸せでならないと素直に感じていた。
自分はひょっとしたなら香奈子よりもずっとこの男の事を愛しているのではないか?と思うほどだった
事実、そうだったのだと思う。
おはようと言えばキスをあげたくなり、
いってらっしゃいと言ったなら10分後には、早く帰ってこないかなどと考える。
だからこそ、龍希がたまに覗かせる
ある種、絶望にも似た不安気な顔に、どうしようもない悲しみと、苛立ちと、大きな不安を覚えた
どうしたのなら、龍希は全てを何の疑いもなく
幸せだと笑むことが出来るのだろう
そして、どうしたのなら、彼を終わることなく先まで永遠に、守ることが出来るだろう。
それは、恋人としての想いは勿論、
おそらくは
家族としての想い、親友としての想い、兄としての想いでもあったのかもしれない。
自分の方が10も歳が上で、普通にいっても自分が先に死ぬだろう。
そんな当たり前の事が、どうにも許せなかった。
そんな事は飛び越えて、龍希が死ぬまで自分が守り通したかった
或いは、自分が残した何かによって守らせたかった。
貴仁はそんな、龍希が知ったなら
オレは守られたい訳じゃない!オレだって男だ!
などと怒りそうな事を、最近、龍希から伝染する不安と共によく考えてしまうのだった。
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