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悩み、相談。
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「……そりゃあ、そんな気持ち全く無いなんて、嘘になりますよ。」
悩み考えぬいて見つけた違う理由がちゃんと有るのだから、否定し、その違う理由を伝えればいいのだが、貴仁はそれを出来なかった。
「…だって、怖いじゃないですか。」
否定するどころか、ついて出てきたこの言葉に、けんちゃんは少しムッとした表情になった。が、それはすぐに不安そうなものに変わった。
続けて話す貴仁の、言葉が、様子が彼のいつもと違ったからである。
いつもの、
どんなに不安要素が有れど、まっすぐと、瞳を逸らさず、強さすら感じるその様子が
今の彼は、うつむき、震える声で、自信も無さげに見えたのだ。
怖いのだ。きっと、本当に。
「……どういう、怖さかしら…?」
けんちゃんの声は冷たくも、怒ってもいない。優しいそれだった。
「……すいません、いい気はしないですよね?でもね、怖いですよ。龍のことを好きになるスピードが早すぎて、もう、俺はどうしたならあいつと長く供に居れるかを考えるのに、
なのにあいつはいつまでたっても、不安そうにさ。何度壊してもすぐに壁を作って。少しだって俺との関係の長続きを信じてなんていない感じだ。」
トン、と少しだけ乱暴にテーブルに置かれたビール瓶が静寂を作る
当たり前のように出た【長く】と言う言葉は、けんちゃんを少し驚かせた
「俺、あなた達の言うとこの、ノンケ?ってやつでしょ?……何かさ、龍にその言葉言われる度に、自分とは違うと言われてる気がして怖いですよ。
どんなに足掻いても近付けないみたいでさ、
あなた達の当たり前みたいな事に触れる度に置いてきぼりみたくなるんですよ。疎外感……うん、結構な疎外感ですよ。」
けんちゃんは、その言葉に慌てた。
気持ちが焦った。
だってそうだ。自分達が、普通じゃない、他と違うなどという言われ方をしている時と、おそらくは似た気持ちを、この人は今、感じている。自分達の発した言葉によって。
思わぬ所で、思わぬ不安と心細さを作ってしまうものなのだ。
けんちゃんは、ふと、以前知人の誰かが言った
バイセクシャルてあんま好きじゃない
と、言う何気無いとすら思っていた言葉に、恐ろしいほどの刃を感じた
こう言う事なのだ。
けんちゃんが、そんな焦りで言葉を失っていると
貴仁はさらに続けた
「……でもね、本当の理由は違います。怖さに安定を求めたいのも本心だけど、俺が、自分の友人や仕事で長い付き合いになる奴らにね、伝えたい本当の理由は……」
貴仁は、じっとテーブルのビール瓶のフチを眺めると、俯くのをやめ、
小さくうなずき、けんちゃんを見つめて声を発する。
「本当の理由はね、確かが欲しいんです。俺が居なくなっても、龍希を俺の生涯のパートナーだった男として接してくれる人が。
……けんさん、俺はあいつと10も歳が違います。
健康なんて考えもしないできたし、酒も煙草もかなり好きだ。普通にいけば俺が先に死にますよ。そうしたなら、龍はまた残される側になる。
だから、せめて、俺が居なくなっても龍希を守ってくれる確かなものが欲しいんです。」
守るなんて言い方、あいつはきっと嫌がりますよね
そう付け足すようにして笑うと貴仁は先程よりやや気分が良さそうにビールをくいっと流し込む
その僅かに生まれた気分の良さは、守ってやると言う言葉に「オレが貴仁さんを守るんです!」と、不満そうに口を尖らせる龍希を想像しての事だろう
思い浮かべただけで、こんなにも気持ちが高揚する。愛らしい。恋しい。
けんちゃんと言えば、貴仁の告げた真意に
正直、開いた口がふさがらない思いだった。
あらやだ!流石ノンケの男だわ!と叫びそうなのを止める。さっきの今でそれは無い。流石に。
けれど、そう思う程に喜びを感じた。
この男は、少しでも長く居ようなんて事ではない。生涯を共にしようと考えている。
そして、その後にも愛した証を残そうとしている。
なんならきっと、保険や遺族として法的に何かを残せる方法なんてとこまで考えたいぐらい思ってるのではないか?
そこでけんちゃんは、ふ、と香奈子の存在を思い出すと、
きっと人間は、いつ突然どうなるかも解らないと思っているのだ。この人は。と悟った。
貴仁はそういう人間だった。
人を愛すると言う事は、相手の人生に踏みいると言う事。相手を守ると言う義務を得ると言う事。
この国で自分と過ごす人生に安心を得てもらう、と、言う事。
その考えは少し、重くて固い。
それでも、貴仁はそういう人間なのだ。
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