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反発と説得
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二人が、同じ事をそれぞれの気持ちと向き合いながら悩んだ数日。
それは、二人が気付いているかは解らないが、おそらく恋人である事実を裏付けるとても分かりやすい出来事だろう。
お互いがそれに気付いたのなら、おそらくは大きな自信と幸福に繋がるであろうこの時間は
今はただ、僅かな不安を感じさせながら過ぎ去るだけのものに他ならないのだ。
そんなある日、翌日が休みなので時間にも気持ちにも余裕があると言う事もあり、
あの時と同じ、夕飯後の珈琲タイムに龍希が話をきりだした。
「カミングアウトの、事だけど。」
貴仁の仕事が一段落付いている時に欠かさないこの珈琲タイムは、
二人にとって、そして、きっとどこかで見守っているであろう亡くなった香奈子にとっても、意味のある時間である。
「……うん。」
きりだした最愛の男の勇気に、貴仁は落ち着いた笑顔で受け止める。
二人がこの問題に、この時間を利用するのは必然なのかもしれない。
「……どうしても、しなきゃダメ、ですか?」
龍希の表情はやはり曇ったまま、その気持ちもおそらく同じぐらいに曇っているのは明白だ。
「うん、ダメ。…とは言いたくないし、無理強いがしたい訳じゃないんだ。……でも、してほしいなと、心から思っているよ。とても、強い気持ちで。」
龍希は少しだけ驚いた。
貴仁の自分への優しい、ある意味過保護にさえ思える甘さを考えたならあるいはもう諦めて、
うん、いいよ。止めよう。無理をいってごめんね。
などとなるかもしれないと思ってのあの切り出し方をしたからだ。
それが、穏やかで優しいけれども強い決意の眼差しで
変わらない事を押してきたのだ。
龍希はそれにショックを感じた。無論それが身勝手な気持ちだとは理解していた。
けれども、いつもの優しい仕掛けと同じ、抗えない優しさに満ちたお願いに近い命令に、初めてショックを感じた。
「え……、なんで?オレと貴方の関係なんて、オレと貴方だけが信じて、想い合ってたなら、それでいいじゃないか……」
冗談を受け止めるように、笑って話そうとして明らかに失敗に終わる。
龍希のひきつった口元はすぐにショックを隠せていない表情になった。
「……や……だって、さ、そうじゃん、誰も知らなくたって困らない、適当に必要な嘘ついて、
結果オレと貴方が互いに気持ちを信じられてたならいいのに、何がそんなに、嫌だ……?」
龍希の続けるその言葉に、貴仁は小さな苛立ちを覚えてしまった。
あんなに何を伝えても壁を作り、信じてくれていない龍希が、信じると言う言葉を当然に溢したからだ。
何とも器の小さな男の苛立ちだと、貴仁は後になって反省をするが、その時の彼は、
少しだけ意地悪な返しを用意した。
それは、龍希の感情を逆撫でると理解しながら用意したような、そんな言葉だった。
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