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カミングアウト
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「悪い、龍希、作戦変更だ」
さながら緊急連絡!といった貴仁からの着信を龍希が家で受けたのは、その貴仁が友人達を迎えに行くと家を出てから、30分ほど後の事である。
「……え、どうかしたの?」
そもそも作戦とは何か?を議題に出そうとしたが、そこはいちいち触れないでおくべきだな。と悟った龍希が状況説明だけを求めると、
「……あのな、本当は家に着いてから順に、
今日は自分のパートナーに合わせる為に……て切り出すつもりがさ、もうすでコイツら、俺が恋人を紹介する為に呼んだってなってるんだよな……」
貴仁がごめんな、と謝罪と共にそう言ってくる。
「ほらー!やっぱり!どうすんですか?玄関開けたらカミングアウトとか無いでしょ?!」
龍希はほんの30分ちょっと前に、
迎えに行ったらその道中に今日は何?恋人紹介??って話しに絶対なるでしょ?
と、あれほど言ったのに……と、呆れ果てて口を尖らす。それに比例して耳元の貴仁の声は申し訳なさそうにか細くなっていく。
「……はい、おっしゃる通りで……あの、どうしようか龍希……えと、玄関開けたら恋人が男でしたー!ってのは……」
「嫌!ですよ!!……もぉー。貴仁さん一旦先に入ってきてくださいね?もう、いらっしゃいませと同時に紹介にしましょう?」
龍希がすぐに気持ちを立て直して提案すると、
「よし、作戦変更だな!!」
と、先程までのか細さはどこへ消えたか?といった大変元気な返答をする。だから作戦ってなんだよとツッコミたくなるのをため息と一緒に吐き出し、
その電話を切ると、龍希は一連の流れを反芻しながらふふっと吹き出す
「……あぁ、そうか、少し嬉しいんだ、あの人は。」
久しぶりに友人に会えた事が、そして、その友人達に自分の事を恋人だと紹介出来る事が、恐い反面、とても嬉しいのだ。
もう、殆ど終わったテーブルセッティングを眺めて
今日と言う日を迎えて良かったんだな。と思い、
まだまだ残る不安や怖さが少しだけ小さくなっていくのを実感をする。
さて、
時を同じくして、会話を終えた携帯電話を握りしめ、ふふっと笑ってしまったのは貴仁だ。
自分はひょっとしたら、今日と言う日が嬉しいのか?
そう思ったなら、今朝、龍希と二人で、しきりに緊張を伝え合ったのは何だったのかと思え、口元の笑みが止まらなかったのだ。
「おー?貴仁、オマエ、なぁにニヤけてんだよ、おい」
その様子を覗き見してニタニタと笑う男がいた。
貴仁の昔からの親友、淳也だ。
かなり長めに伸ばされた髪の毛を後ろで結び、
ラフではあるが、キチンと考えコーディネートされた風のスタイルはシンプルな古着ファッションと言うべきか。
「あは!本当だ!新井田先生でもノロケるんですね?!」
そして、その淳也の後ろから
楽しそうな、少し高めの声をあげてうふふと笑う女性は真奈。
まだ少女かと思うほどの顔立ちの彼女は、実際、龍希よりもさらに若いほどだが、翻訳家の卵である。
まだまだ志始めたばかりだが、その意欲は貪欲で、翻訳者達が意見交換をする勉強会で貴仁と出会い、尊敬するようになり、貴仁も何かと面倒を見るようになった。
すると、さらに一際テンションの高い声がした
「え?え?彼女さん美味しいご飯作って待っててくれてるんすか?嬉しいっす!!」
勝手に食事の有無まで決めつけた後輩ノリの抜けないこの男は、編集勤めの樹。
お調子者で、勢いだけの会話が多いのは否めないが、
翻訳編集の仕事への熱意は強く、的確である。貴仁は過去に何度か彼の仕事の腕前に助けられていて、
仕事の話では彼が年下などと言うのは忘れるほどだ。
と、そこで食事と言う現実に初めて気が付いたのは貴仁である。
しまった。と、思わざるを得ない。
何しろ当たり前のように食事を作って待っているのは龍希だ。
『……おいおい、俺もすっかり馴れて忘れてたが、あいつ、自分が料理下手だって事忘れてるだろ。』
そう思ってしまうほど、昨日の龍希は、さも料理が出来る人間のような様子で、客人の好き嫌いやら、料理のリクエストやらを聞いてきていたのだから、貴仁もすっかりその気になっていたし、何より龍希が頑張って作るモノなら何だっていいやと思えるほどには愛しているのでその問題に気付かなかった。
何よりしまった。と思える理由は、
ここにいる3人の前回の恋人紹介の記憶が、香奈子だと言う事だ。
香奈子は、料理が得意だった。
龍希は、とても頑張っているが、
思い起こせばつい数週間前も、生まれて初めて口にする類いの味の麻婆豆腐を食べさせられた。
『……あれは、すごかった……』
貴仁は、少しばかり遠い目をする。
カミングアウトにばかり目がいって、かなり大きな所に気付いていなかった。これはここらが良いタイミングなのでは?とさえ思え、口をひらく。
「……それだけどさ、料理は、あまり得意じゃない奴なんだ、実は。」
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