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カミングアウト
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貴仁は、今台所に居るよ。と、告げ皆を居間へと通すと、台所への襖は半分閉められていて、真っ直ぐと見通すことが出来なかった。
「連れてきたぞ。」
台所へ向けて放たれた貴仁の言葉に
龍希はビクリとし、少しだけ強くその唇を噛みしめると、1つ、大きく深呼吸をする。
両の手のひらを自分の頬にあて、大きく頷き、振り向いた。
半分空いた襖ごしにそれを見て、貴仁が優しく微笑む。
二人の心拍数は、明らかに多く脈打っていただろう。
それを確め合った訳ではなくても、
二人は今、互いが同じだけ緊張しているのを一緒に感じられていた。
それが、不思議な温もりと安心感になっていた。
そして、
貴仁の、「紹介するよ」の言葉を合図かのように、
台所から龍希が皆の前へと出ると、皆の顔をしっかりと見るよりも先に、
「……はじめまして。日尾 龍希です。」
そう落ち着いた声で挨拶をして、そのまま深くお辞儀をした。
心臓は飛び出しそうで、声とは裏腹に落ち着けていない震えを納めるようにその手を強く握りしめた。
そして、つとめて笑顔を作ると、その顔をあげ、3人をしっかりと見て挨拶をしてみせた。
「……貴仁さんと、お付き合いしています。
今日は、ありがとうございます。」
驚いたのは勿論3人だ。
けれども、貴仁もまた、ある種、驚いていた。
落ち着いて微笑んだ龍希に少しだけ息をのんだのだ。
怯えるでもなく、恥ずかしがるでもなく、
真っ直ぐと彼らを見て、堂々と微笑んだ。
その姿に、貴仁は緊張などすっかりと忘れ、たった今与えられた安心感と、感じられた愛情を噛みしめ
「……彼が、紹介したかった俺の、最愛の人だよ。」
と、3人へと幸福そうに、笑んでみせた。
正直怖くて緊張していて、不安は大きかった。龍希は自分以上に怖いだろう、泣いてしまいはしないだろうか?そんな事を気にかけていたのに。それなのに、
龍希に助けられた。不安を取り除いて貰った。
貴仁は、改めて龍希と言う男の強さを思いしるのだ。
「………あ……」
そう呟く純也は玄関で気付いてしまった事の答え合わせを終え、
真奈は驚きに口をその手で押さえて目を幾度も幾度もまたたいて、
樹もまた、口を大きく開けたままその眼を見開いては、貴仁と龍希をいったりきたりと見つめ、
3人は供に、言葉を無くした。
「……え、それって、そう言う事、です、か。」
最初に口を開いたのは真奈だ。
それは、口を開いた。と言うよりは、開いてしまったと言った感じであった。
無言を切り裂いた「そう言う事」という言葉に、その意味や内容など関係無く、龍希がドキリと体を強張らせる。
その言葉がどんな意図で紡がれたのか、悪い内容では無かったか?気持ち悪がられてはいないか?
ぐるぐるとそんなどうしようもない事を廻らせられるだけ廻らせてたなら、もうすでに、先程までの頑張って繕った『落ち着き』など消え失せ、
上手く隠したと思っていた不安が大きな波のように押し寄せてきた。
しかしそれはすぐに崩して貰う事が叶った。
純也だ。
「……まぁ、驚くより、先に挨拶、だよな。ごめんな、えーと、龍希、くん?でいい?俺は純也。こいつとは学生時代からの腐れ縁だよ。よろしく。」
「こいつ」と貴仁を指し、キシシと笑いながら、純也がその手をそのまま龍希へ伸ばす。
龍希の気持ちが押し寄せてきた不安で押し潰されそうになったタイミングで行われた笑顔の自己紹介は
幾ばくかその不安を和らげ、
何よりしばし止まった流れを動かした。
それを理解したのか、貴仁がまるで何事も問題が無かったかのようにパン!と手を叩くと
「よし、龍希!こっちが真奈!前にも話した翻訳家希望のヒヨコだよ。
で、その横は仕事で世話になってる樹だ、かなりアホな話し方をするけど、仕事は出来るヤツだから、安心しろ。」
そう言って、まぁ、俺の弟子と付き人だな!とガハハと貴仁が笑うと真奈と樹がその雑な紹介に、ひどいー!と叫びながらも、ペコリ、と龍希へお辞儀をした。
酷いなどと愚痴を言いながらも、まだその驚きと予想外の展開にまともに龍希を見れないでいた二人は
助けられた蝶のようにひらひらと貴仁に言われるがまま、居間へ用意された場所へと座りこんだ。
「………正直、驚いたよ。かなり若いのもだし、何より男とはね。」
居間に用意された大きめのテーブルを囲んで
畳に置かれた座布団へと腰を下ろすと、
龍希が台所へ行ったのを見てから純也が少しだけ小さな声で貴仁へ告げた。
「まぁな、俺も、今でも少し、自分に驚くよ」
貴仁がふふっと笑って言うとその幸せそうな顔に皆は少し安堵する。
「……でもっ!私、素敵だなと思います!……その世界と言うのを私は知らない事かもしれないけど、でも、知りたいなと思いますし、嫌だとかは、思わないかもしれないです。だって、なんだか、幸せそうです。」
真奈は1つ1つ、言葉を選んで話しているようだった。
「驚いたっすよー!!なんかー!オレ、まだよく解らないっす!!だって、男っすよ!男、なんか、すげーなぁ!しか、言えないっす……」
対してまるで言葉を選んでいない樹の捲し立てるそれを純也が、お前は余計な事言うなよ?と制してみせる。
その様子に、あははと笑うのは貴仁だ。
「……ありがとう。驚いたと思うのに、否定をしないでくれて助かった気持ちだ。本当はな、凄く怖かったよ。あいつも怖がってた。だから、拒否されなかった事は素直に嬉しい。ありがとうな。」
まだまだ皆が十分には受け入れられている様子でないのは、その声色で理解できたが、まずは真っ先に否定される事の無かった事実を喜ぼうと貴仁は思った。
そして、龍希との今日までを説明するように話して聞かせた。
そこへ酒と食事を運び込んで来たのは龍希だ。
まだまだ緊張しているその顔には、頑張って作っているであろう笑顔が見える。
「龍希、とりあえずはこれでいいから、お前も1度座れよ。」
本当のところ、忙しく動く事で避けていたそれを促された龍希は、戸惑いながらも、うん。と小さく頷くと、貴仁の横へ座った。
その、対面せざるを得ない状況を、避けていたのは、
龍希もだが、真奈や樹もまた、同じであった。
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