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カミングアウト
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日もくれて、夜へと入ると肌寒い季節となったのに
この日のこの家の居間の室温は高く感じられた。
「へぇ!洋服やさん?!龍希くんが店長!どうりで容姿も格好良くて洒落てるわけだ!」
龍希と樹が打ち解けた事が良いきっかけとなって、真奈や純也とも話が弾み、
料理も不味いとも言われる事なく………決して旨い!と大絶賛はされてはいないが………何よりそれをフォロー出来る程の種類と量のアルコール類の助けもあり、
このカミングアウトの席は、すっかり宴の席のような賑やかさとなっていた。
「いや、そんな事ないですよぉぉ……」
純也が龍希の仕事を知り、どおりで!とその容姿を褒めると、でへへーとわかりやすく照れてみせる龍希はアルコールもまわり、とてもご機嫌そうだ。
「そんな事ありますっ!龍希さんカッコいいですし、物腰も柔らかで本当に………何で新井田先生なんですかぁぁ??」
もう、何杯目だろうかと言う焼酎を口に運びながらもまるで酔っていない真奈も龍希の格好良さを誉め称える。そこにも貴仁の事を「新井田先生」と言う敬意は無くさない所が彼女が酔っていない証拠かもしれない。
「確かにっす!仕事以外何も出来無さそうだし、世話かかりそうなのに……貴さん…」
元々酒が得意では無い樹は自分でセーブした飲み方をするので、いつも気持ちが楽しくなるギリギリのラインを保つ、なかなか良い飲み方の出来る男だ。
「実際どうなの、龍希くん、こいつ本当に普段家の事、なんも出来ないでしょ?見た目がイケメンとも言えないしさぁ、いつも寝癖だらけのただのオッサンだし。」
その話題に純也ものっかり、いよいよ話は貴仁を選んだ謎へと繋がった。
そうなると別の疑問を持つのはその当人である貴仁だ。
何故、紹介する人物が女だろうと男だろうと、必ずこの、【世話のやけるズボラ人間を撰んだ理由】という話題はこんなにも盛り上がるのか。
そして、今回は10も歳の離れたオジサンである。という話題も付くようだ。
居ずらくなった貴仁が、この場をとりあえず適当な理由で離れようかどうしようかとした時、
龍希が何の躊躇も無く、驚くほどの即答でそれに答えた。
「……うんー、温度。かなぁ……」
その時の龍希は、酔っている事はすぐに解る状態ではあったが、答えたその口調はとてもはっきりしていて、皆はそれに釘付けにされた。されざるを得なかったのだ。
何故なら、龍希がその後も、誰の何の返答も待たずスラスラと言葉を続けたからである。
それも、至極嬉しそうな、幸福そうな顔で。
「あのね、オレ、中学の頃施設を出て家戻ったり、編入したのとかもあったし、めっちゃ暗かった。学校も馴染めないで家にも帰りたくなくてふらふらして。
したらね、貴仁さんが、家で遊ぶか?って手を差し出してくれた。」
ふにゃりと笑うその顔は、幸せに彩られ
男同士だという事など忘れる程で。
そこには、女性が恋人の話をしながら幸せそうに笑むのとはまた違う姿の大きな幸福感が見えた。
悲しみなど無く彩られた幸福感なはずなのに、何処か泣きそうにも見える顔は、
哀しみとはこれかと思う事も出来るのだった。
「香奈子さんはいつもオレを気にかけてくれたし、そのうち友達も増えてきて、で、当の貴仁さんは目すら合わせてくれない日なんて沢山あるの!」
ひどいよね?と言うようにあはは、と笑う龍希はその後も幸福と哀しみに染まった顔で続けるのだ。
「……でも、貴仁さんはさ、オレが誰かの温度を感じたいって、その1番の、今!ってタイミングで、必ず手を差し出してくれた……香奈子さんへ向ける最高の眼差しとも笑顔とも違ったけど、それでも、人の温度をね、オレにくれた。」
明らかに酔った声色でも、丁寧に発せられるその告白は本心であって、ずっと感じてきた気持ちなのだろうと言う事は容易に理解が出来た。
貴仁は少しだけ気恥ずかしそうにふふっと笑うと、
お前、酔ってるぞ
などと茶化すように龍の肩をぽんと叩いてその席を立ち、台所へと消える
誰もが照れ隠しだなと言う思いにやにやと笑むのを見ながら龍希は幸福そうに呟く
「……えへへ、で、それで、気付いたらもう、自分の世界に、この人しか居なかった。」
酔って少し赤らんだ頬が、更に薄いピンクに染まる程に照れてはにかむ。
今日と言う日の喜びを噛み締めるように。
長い、長い間諦めきれずに愛してきた男への絶えぬ想いを噛み締めるように。
その言葉は、台所へ消えた貴仁に聞こえただろうか?
頭のどこかでそれを気にかけながら皆は胸をつまらせ、心の中がふわりと暖まるような、その表情を見守った。
そして、そんな表情を見せた龍希が、あっははー!と突然笑うと、
恥ずかしいー!おかしー!
飲みかけの酒を一気に飲み干すとそう言ってケタケタと笑いだし、
それを見た貴仁が、台所から戻り空っぽになったグラスを取り上げ、飲みすぎだぞ、と呆れる。
その時、皆は、この男はさっきの言葉を聞いてたなと確信をするのだった。
「……ほら、気持ちはよく解ったから、もうお前寝ろ。な?」
「…えー?!本当にぃ?本当に解ってるぅ??愛してますよー!大好きなのぉー!」
すっかり酔ってしまっている龍希の顔は
耳までほんのりピンク色に染まっていて、
幸福の色とはこんな色なのだろうなと思わせるようだった。
何より、見たことの無いようなはしゃぎっぷりの姿はとても楽しそうで、
見ている貴仁も、くっくと笑いを漏らしては、今日と言う日の幸福をじんわりと滲ませた。
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