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カミングアウト
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それには、どうやら貴仁本人も同意らしい。
ははは、と笑うと顎の無精髭をいじりながら、
「あぁ、全くだ、俺も知らなかったよ。」
などと言っては、嬉しいような、恥ずかしいような、怖いような、と掴み所の無い気持ちを乗せた笑顔を覗かす。
「……それって、恋なんかじゃ、ないっす……」
突然、まるで今にも泣くのではないか?と思うぐらいの難しい顔をした樹のもらしたその言葉に、一行は少し気を張る。
「……何で??…樹さん何言ってんの??…」
もうすでに泣き顔の真奈がそう言い出した時、樹は違うよ!と言わんばかりに、真奈のそれを潰すような大きめの声を張った。
「だって……!!それ、恋なんて枠でいいんすか?ダメっす!!なんか…そんな枠で同じにしちゃダメです!もっと、ずっと、すごく、深くて、大きくてっ!!!なんか、きっと、これ、すごく、………愛なんです!すごく、愛に一番近い愛なんですよ!きっと!!!!」
編集の仕事をしていてこの表現能力なのかと疑問に思えるほどの大雑把で、勢いだけの、表現であったが
それでも、それを耳にした3人は、
あぁ、そうだ、その通りだ。と思えた。
特に貴仁は、何だかとても大きな力で背中を押してもらえたような、
大丈夫だ、間違ってない。と包んで貰えたような、そんな気持ちになっていた。
今日、全てを話せた事を貴仁は嬉しく感じたが、まだこれが全ての正解かなど解らずにいた。
今後、これがプラスに出るシーンなど本当に有るのだろうか?寧ろ、何かマイナスになったりはしないだろうか?などと思えもするが、
それでも貴仁は、漠然と、この日の結果は悪くはないはず。と、気持ちを正すのだった。
この日を境に、3人は各々と、この家に訪れる頻度が増えた。
樹は仕事関係なのもあり、以前より訪問しやすくなったようで喜んでいたし、最近では貴仁でなく、龍希と遊びに行ったりもしているようだ。
真奈なんかは、性別も手伝い、龍希が馴染むのが早かったようだ。
昔から龍希は女性の友人が多い。
かなり早い段階で、龍希は、友人のレズビアンのカップルに彼女を紹介もしていて、
楽しそうに会話をしている。その二人と真奈のやり取りにケタケタ笑う龍希を見ては、微笑ましいなと貴仁は思うのだ。
お陰で、これまでは、ノンケとゲイという必要無い筈の線引きによって貴仁が馴染めずにいたそのカップルとも、最近貴仁は会話が弾むようにさえなったのだから、真奈には感謝である。
何より龍希はあのカミングアウトから先、
明らかに日々楽しそうに笑う事が増え、毎日を何かふっきれたように楽しく笑顔で過ごしていた。
仕事も上手くいっているようで、今まで以上に忙しくしているが、休みには、貴仁が仕事でも、それを1人待っているのではなく、こうして皆と一緒に遊んでいる。
歳も龍希と同じほどのこの二人が、良く顔を見せてくれる事や、自分達を恋人同士として認識してくれる事を、貴仁はとても嬉しく感じた。
あのカミングアウトが、意味を成して来ている感じがして安心を得られた。と、同時に、もっと本当にちゃんと多くのそれを得たくなる。
人の欲とは限りが無い。
そんな、あまり言い出せないような事をいとも簡単に口にしてみせるのは、純也だった。
「龍希くんはさ、貴仁の両親と会いたいって思ったりするの?」
それは純也が遊びに来ていた、オフの日の昼下がりだった。
発せられた言葉は、まるで二人のタブーのようなそれなのに、
あまりに、朝ごはん食べた?ぐらいの口調で言われたからなのか、
それとも彼の人間性の成せる技なのか、
龍希は、少しだけ躊躇するものの、自分でも意外なほど、何の緊張もなく
考え無くもないけれど。 と、答えていた。
それに驚いたのは何より貴仁だろう。
「え、お前、それ何かの冗談?」
思わず、これはもうツッコミと言えるような言い方で返していた。
龍希はその、反応に少しむっとすると、
「……何でです??オレが素直に認めちゃおかしいんですか?」
少し冗談も覗かせた拗ね顔で睨んでみせる。
「…いや、いやいや、違う違う、でもさ、だって、こないだのカミングアウトの時あんだけ言い合ったのに!なんだよその簡単さ!」
それに真っ向から答えているような貴仁も、そのやり取りを楽しんでいるのかもしれない。
「……誰かさんより、純也さんの言い方さらっとしてて答えやすいですしね。」
さらに嫌味を利かせた言葉を用意する龍希と、それに、機嫌悪そうに、可愛くねぇなぁと答える貴仁を見て純也は
「またまた、なぁに言っちゃってんの。龍くんのそう言うとこもぜーんぶ可愛い可愛い言ってたくせに」
からかうようにそう言う。それはおそらくは貴仁の反応を楽しもうとしたそれだったが、
そのからかいを受けた貴仁は、慌てて否定……を、するではなく、何をまた当然の事を。と言わんばかりに言うのだ
「……お前、わかってねぇなぁ、ここまでの会話のやり取り含めての、可愛い、だぞ。可愛かったろ?このやり取りの龍、全部。」
あまりに、当たり前の事のように言う貴仁に
龍希は、もぉぉ、やめてよそういうのぉ!!!と照れると言うよりは半分本気で怒っている
おそらくは、可愛いと言う単語にだろうか?
純也は、うわっ!何だその惚気!お前本当に誰だよ!!と、あっち行け!とばかりのジェスチャーをする。
それに嬉しそうにする貴仁を、
本当にこんな貴仁知らないよ。と純也は
改めて人を愛する事の凄さを知るのだ。
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