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2人で珈琲を
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「龍ー!おい、そろそろ出るぞ!」
「あー!もぅ!うるさいっ!わかってるから!少し待っててってば!!」
まだ朝の空気が残る時刻、空は晴れ渡っていて、そよぐ風が心地好い日、外から聞こえた貴仁の呼び掛けに、龍希が縁側から外に向けて大声で叫んでいる。
「けんちゃん!今日は風が気持ちいいから、縁側開けっぱなしで行くけど、いい?あと、もんたは今、朝のごはんあげたからね、夕方にもう1回ね!香奈子さんのゆず茶は別に変えないでもいいからね、それからタオルは出しといたから、適当に使ってよくって、えーと、あとは……」
「はいはい、わかってるわヨ、さっきもちゃんと説明聞いたから大丈夫、縁側も、出かける時はちゃんと閉めるから安心なさい!」
龍希の立て続けの説明を、先程から2回は聞いているけんちゃんは、呆れたようにそう返すと、
ほら!とっとと行きなさい!と言わんばかりのジェスチャーを付ける。
「本当にぃ?んー、じゃあ、行ってくるけど…、明日の夜には帰るから、何かあったら電話してね!」
いつもより妙に早口で、絶えず喋り続ける龍希を見てけんちゃんは
この子、すごく、嬉しいんだわ
と、とても解りやすい状況にうふふと笑ってしまう。
この龍希という男の親友を続けて、もうどのぐらいたつだろう。
こんなにしっかりと笑ってる姿、初めて見たかもしれないわ。と、思えてなおもその笑いは幸せそうに漏れる。
今日、この日、龍希は確かに朝からテンションが高かった。
何故か?それは、自分が中学に上がるまでを過ごした児童養護施設へ、貴仁と共に行くからだ。
実の母へのカミングアウトは後回しとしでいいよと告げた、あの後、「オレが育った場所は施設だしね。」と笑った龍希の言葉に、貴仁が提案したのだ。
「……じゃあ、ご挨拶は、施設が先か。」と。
意外すぎるその提案はこの幸福な日へと繋がった。
そして、閑散期だったのも有り龍希が連休を取れたため、一泊するほど遠くは無いが、
「二人で旅行もしたこと無かったし。」と、プチ旅行を兼ねることとなった。
もんたの世話も有るし、と、けんちゃんが留守番をしてくれる事となり、
2日だけ、この家は、けんちゃんの城となる事になったのである。
「じゃあ、けんさん、すみませんが色々宜しくお願いします。行ってきます。」
玄関先でようやく出てきた龍希を待ちわびていた貴仁が、けんちゃんへ挨拶をすると、
けんちゃんは、見慣れないスーツ姿の貴仁へ思わずうふふ、と本日何度目になるかわからない笑い声を出してしまいながら、
「いやだ、何度見ても、笑っちゃうわ貴方のしゃんとした姿ったら。……うん、
……ありがとうね、貴仁さん。」
ふざけたような言葉の最後に付けられた、まさかのお礼の言葉に、貴仁は笑いかけた口元を取り止めて、驚いたように瞳を開くと、けんちゃんを見る。
見られた彼は、それを見つめ返し
ふふっと優しく笑いかけるだけにとめ、多くを語ろうとはせず
いってらっしゃいな。と手をふった。
貴仁はその、目の前に居る誰より心強い友人へ最大限のお礼の気持ちを込めると、
深く、お辞儀をし、やはり同じに多くは語らず
「……こちらこそ。本当に、いつもありがとうございます。」
それは、互いに、
これからも頼ってちょうだい。と伝え
これからも頼みます。と伝えた「ありがとう」だ
彼の助言も見守りも無くして、龍希は笑顔も涙も見付けてはいない人生だっただろう。
龍希と貴仁
2人は、力強い理解者に常に支えられながら
今日、また新たな道を歩む。
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